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略奪されました
今更戻れませんっ!
しおりを挟むしばらく二人で黙ってバスに乗っていた。
鈴も困っていたが、この男も困っているように思えた。
男の名は、清白尊。
名は清白だし、顔は瓜二つ。
清白征と双子なのかと思ったのだが、違うと言う。
「俺たちは異母兄弟なんだ」
それにしては、そっくりだな、と鈴が思って見ていると、
「母親同士が双子なんだ」
と腕を組み、前を見たまま、尊は言う。
「うちの母親は、妹に夫を寝取られ、俺は腹違いの弟に跡取りの座を奪われた」
そ、それは最悪ですね……と他人事ながらも思っていると、尊は溜息をつき、
「降りろ」
と言って、ボタンを押そうとした。
「もういい。
気が済んだ。
大勢の招待客の前で、あいつに恥をかかせてやったからな」
だが、いやいやいや、と鈴は言った。
「帰れません」
「何故だ」
「いや、何故だって。
あんな派手に出てきて、やあっ! とかって帰れると思います?」
と鈴は手を上げて挨拶をする真似をする。
いや、征に、やあ、なんて気軽に声をかけられたことはないのだが。
今、側に居る、この困った征の兄よりも遠い存在だからだ。
「花婿から略奪されたけど、返品されました、みたいになってしまうではないですか」
と鈴が言うと、
「そんなことないだろ。
俺に無理やり連れ去られたといえば……」
と言いかけ、尊は、
「そういえば、お前、途中までは自分の足でついて歩いてきてたな。
逃げたかったのか?」
何故だ、と言う。
「立派な花婿じゃないか」
いや、あんた、どうしたいんだ……と思ったのだが、ただの一般論のようだった。
というか、立派な弟だと思っているからこそ、余計に腹が立つのだろう。
そこで、外の景色に気づいた鈴は、ハッとして言う。
「そうだ!
このバス、確か循環バスですよ!
街中をぐるぐる回ってるんですっ。
早く降りないと、教会に戻ってしまうではないですかっ」
と思わず、立ち上がり、
「……お前、逃げる気満々じゃないか。
征の何処が気に入らない?」
と言われてしまった。
私の中の征さんの評価より、この人の中の征さんの評価の方が高いようですよ……。
そう思う鈴に、今走っている場所を確かめるように外を見ていた尊が言う。
「わかった。
次のバス停で降りよう」
振り向いた尊は、征とそっくりな顔で鈴に言ってきた。
「可哀想だから、帰してやろうかと思ったのに」
じゃあ、最後まで付き合えよ―― と。
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