ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

文字の大きさ
80 / 86
ちちんぷいぷい

そんなことしたら殺されますっ

しおりを挟む
 
 堀様のマンションに着いたとき、

「どうぞ、おあがりください」
と言われ、青葉は戸惑う。

「……いや、あなたの家にあがったりしたら、複数の身内に殺されそうなんですが」

 もちろん、あかり、寿々花。

 そして、何故か時折混ざってくる真希絵にだ。

 堀様は、
「あなた、面白い方ですね」
と笑っていたが、いや、笑いごとではない。

 青葉は堀様に向かって言った。

「いや、まずですね。
 この助手席にあなたが座ったと知れば、次にここに座る権利を巡って、熾烈な争奪戦がはじまりますから」

 必死になるだろうあかりが欲しているのが、『俺の車の助手席に座る権利』ではなく、『堀様が一度座った俺の車の助手席に座る権利』なのが、悲しいところだ。
 

 結局、青葉は堀様のマンションに入らせてもらった。

 シックな雰囲気で、あまり物のないセンスのいい部屋だった。

 そのことを褒めると、
「いやー、僕はこういうのわからないんで。
 みんなデザイナーさんにお任せなんですよ。

 そんなに家にいないので、散らからないし。
 なんというか、ほぼ引っ越したときのままです」
と堀様は言う。

「そして、掃除はこの人がやってます」
と壁のそばで待機中のお掃除ロボットを指差し、

「洗い物はあの人が」
と食洗機があるらしきカウンターを指差す。

「うちには家政婦さんがいっぱいです」

 はははは、と堀様は無邪気に笑っていた。

 うう。
 なんという感じのいい男っ。

 さすが、あかりが好きになるだけのことはあるっ。

 あかりは、俺のことは、遠慮なく、
「感じの悪い人」
とか言ってきそうだが――。

 っていうか、男の俺でもファンになりそうな柔らかい雰囲気だ。

 癒される。

 俺といたら、あかりは癒されないか、と自分と比べてブルーになりつつも。

 なんだかこの堀様は憎めず。

 自らも追っかけになりそうな気がして。

 青葉は妄想の中で、あかりや寿々花と堀様の舞台のチケットの争奪戦を繰り広げていた。
 

「お茶でも淹れますよ」
と言って、堀様はキッチンに行ったが、しばらくそこで停止していた。

「あ、やっぱり、ペットボトルでいいですか?
 僕、お茶淹れるの、二時間くらいかかるんで」
と言って笑う。

 ……とことん浮世離れしている。

 青葉はありがたく紅茶ペットボトルをいただいた。

「その消えたお嬢さん、私の舞台のチケット、ハズレてるんですか。
 当たってたのなら、なにかわかったかもしれませんけどね。

 本人が来なくても、誰かに譲ってたりしたら」

 まあ、舞台から客席は見えないだろうが、青葉は一応、あかりの写真を見せてみることにした。

 あかりひとりの写真を撮るのは恥ずかしい。

 全部、日向と一緒に写っているのだが。

 その日向を抱いているあかりの写真を見た堀様は、あれっ? と言う。

「……あかりさん?」

「えっ?」

「この方、あかりさんですよね?」

「えっ?
 何故、あかりをご存知なんですか?」

「レイと一緒に写ってる写真を見たことありますよ、何度か」

 あかりは、あれだけ熱心に堀様のおっかけをしていたのに。

 自分という存在を堀様に知られているとは知らなかったようだ。

 不思議なものだな。

 ……本人が知ったら、狂喜乱舞し。

 嶺太郎が見せたという写真に写っていたおのれの顔を知りたがるだろう、と思ったとき、堀様が思い出したように笑った。

「レイは細かいこと気にしない男なんで。
 見せてもらったあかりさんの写真、半目のとかもあったんですけど。

 間違いない、同じ方でしたよ。

 あっ、そうだ。
 お茶お好きですか?」

「え? お茶?」

「嶺太郎の親戚の人からもらったんですけど。
 僕ちょっと香りのきついお茶は……」

 その茶色い包みを見て、青葉は叫ぶ。

「お茶ーっ!」



 その頃、もうひとり、真実にたどり着こうとしている人物がいた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと? そんな男、こっちから願い下げ! ——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ! って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

処理中です...