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ゼロどころか、マイナスからの出発
申し訳ございませんでしたっ
しおりを挟むなんかあかり見てると、悩むの莫迦らしくなるな、と青葉が思っているうちに、動物園に行く日がやってきた。
明るいときに行きたいと日向が言ったので、みんなでお弁当を持って、朝から出かける。
真希絵が作ったお弁当だ。
あかりは、
「私も詰めました」
と言っていたが。
来斗とカンナも来ていたので、大吾もついて来るのでは、と青葉は怯えたが。
大吾は、今度は、呪いをかけられた村とやらに行っていていなかった。
青葉さん……
おっと、木南さんの言う、私の恐ろしい秘密ってなんなんだろうな、と思いながら、あかりは重い大きな水筒を抱えて、父親の運転する車から降りる。
横から、ひょいと青葉がその水筒をとってくれた。
「あ、ありがとうございま……」
と言いかけたとき、青葉の車から降りた寿々花が日向に話しかけているのが聞こえてきた。
「きのう、まあちゃんたちとごはん食べに行ったよ~」
と日向が言うのが聞こえてきて、真希絵が震え上がる。
なにも責められていないのに。
いつもはちゃんと作ってますよっ、という顔をしていた。
「そうなの?
何処で食べたの? 日向」
日向は全開の笑顔で寿々花に言う。
「いす~」
そりゃまあ、そうですよね~、とあかりは苦笑いしていたが、寿々花は、
「……そう、偉いわね」
と言っていた。
なんとなくだが、青葉さんが子どものころ、そう答えていたら、叱られていたのではないだろうか。
孫って、やっぱり可愛いんだな、と思いながら、みんなで動物園の門をくぐった。
「ほら、日向が好きなぞうさんだぞー」
と幾夫がぞうが見られる柵のところまで、日向を連れていった。
ところが、首から子供用のカラフルな双眼鏡をさげている日向は、
「ぞうさん、いないよ」
と言う。
「そこで、ぱお~んとか言ってるじゃないか」
ぞうは、ぱお~んは言ってなかったが、のしのし目の前を歩いていた。
「ぞうさんは、これだよ」
と日向は看板に描いてある、水色で、お目目ぱっちりのイラストを指差した。
全員が困る。
そうか……。
子どもにとっては、リアルに象色で(?)、なんかしわしわしてるこのデカイのは、ぞうではないのか、とみんなでしみじみしていたが。
日向は、
「違うよ。
これはマルミミゾウだよ」
とデッカいリアルなぞうさんを指差し、言い出した。
そのあと、さっきの看板を指差し、
「こっちは、ぞうさん」
と言う。
すみません……。
大人の方がぞうさんの種類、存じあげませんでした……。
「いや~、やっぱり、昼間は暑いですね」
ゾロゾロみんなで歩く中。
あかりは苦笑いして、青葉を見たが、青葉は、
「ああ。
だが、なんかいいな。
こうして、みんなで昼間に動物園とか」
と言う。
「……まあ、うちの親がちょっと浮いてはいるんだが」
確かに、ひとりなんかゴージャスな方が混ざっている……。
いや、一応、行楽用の格好をされてはいるのだが、なにかが何処か、ゴージャスで場違いだった。
今にも執事とか現れて、寿々花のために、木陰に白いテーブルや椅子を用意し。
よく冷えたシャンパンとか持ってきそうな感じだ。
だが、そんな寿々花もはしゃぐ日向を見ながら楽しそうだった。
青葉が言う。
「気にしないことにしたよ」
「えっ?」
「過去のなんか恐ろしげな記憶とか。
……まあ、お前絡みだから、ほんとうはなにも怖くないんだろうが。
どうせ、記憶は戻りそうにないし。
一からお前を恋に落とすつもりで頑張るよ」
「あ……、木南さん」
と言うと、まだ木南さんなのか、薄情な奴だな、という顔をされたが。
今、そう呼ばなかったのは、単に恥ずかしかったからだ。
……並んで歩くの、照れるな、とあかりは足を速くするが。
負けじと、青葉も速くする。
しまいには、最後尾にいたはずなのに、先頭の日向たちを追い抜いてしまっていた。
「おねーちゃんたち、急いで、なに見たいのかなー?
ライオンー?」
という日向の声が後ろから聞こえてくる。
そのあと、暑さでダラっと寝ているタヌキたちをみんなで眺めた。
青白いくらい色が白いせいか。
まったく暑さを感じていないように見えるカンナが、ぼそりと言う。
「よく見るわ、こんな感じのタヌキ」
「そうなの?
カンナの家の辺り、タヌキが出るの?」
来斗が驚き訊くと、カンナは深く頷き、
「よくこんな感じで、道で死んでる」
と倒れて寝ているタヌキたちを見て言った。
そ、それは今、みんなが思ってたけど、呑み込んだ言葉では……、
とあかりが思うと同時に、隣にいた知らない男の人が吹き出すのが聞こえてきた。
……あなたもそう思ってたんですね、
とあかりと青葉がその見知らぬ家族連れのお父さんを見ると、お父さんは、
はは……とふたりと目を合わせて笑った。
――なんか知らない人と心が通じ合いましたよ。
タヌキとカンナさんのおかげで。
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