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ゼロどころか、マイナスからの出発

ちょっぴりですが、緊張しますっ

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「そのあと、
『すみません。
 100%中国製ですっ』って言いかえてたんですよ、うちの親。

 まあ……おそらく間違ってはいないですけどね。

 強く主張するところではないですよね……」

 夜、訪ねてきた青葉にあかりはそう言い、苦笑いした。

「うちの親は何故、無駄に人に緊張感を与えるんだろうな……」
と青葉が呟く。

 カウンターに座り、アイスティーを飲む青葉の顔を見ながら、

 最近、当たり前のように毎日会いに来てくれるな。

 昔に戻ったみたいだな、と思っていた。

「そのあと、日向が、
『まあちゃんがぬんちゃく縫ってくれたのー』とか言い出して、寿々花さんが衝撃を受けて、

『さすがは、真希絵さんね……』
 って言ってたんですけど。

 寿々花さんって、意外とピュアな方ですよね。

 さすがにヌンチャクは縫えないと思うんですが……」

「昨日、日向が振り回してた上靴入れの巾着のことだろ?
 俺は最初、ヌンチャクの入った巾着かと思ってたんだが」

 いや、幼稚園にヌンチャク入りの巾着持ってくような子は、来年度、入園させてもらえないと思いますね……、
と思っていると、青葉が、

「この間から思ってたんだが、お前が育てても、真希絵さんが育てても、あまり変わりない気がするんだが……」
と言い出した。

 『中国 100%』のせいで、その思いを強くしたようだった。

 まあ、私が実家に入り浸っているので、どっちでも同じ感じですけどね、
と思いながら、アイスティーを飲んでいると、青葉も黙って飲んでいた。

 なんだろう。

 再会して初めて、沈黙が苦痛じゃないな、と思う。

 いや、再会して初めてというか……。

 そういえば、あのフィンランドでの一週間のときは、沈黙すると、緊張していた気がする。

 考えてみれば、今の方が長く一緒にいるもんな。

 濃密な一週間とは違う、ゆるい日常の一ヶ月。

 あの一週間を塗り替えるというより、そこから、ゆるっと続いていくような――。

「あの、あ……木南さん」

 おっと、今、青葉さんって呼ぶとこだったっ、と思ったのが、青葉に伝わったらしく、青葉が微笑んだ。

 そ、そんな顔しないでくださいっ。

 ちょっと、ほんのちょっとっ。

 微妙に少しっ、なんですがっ。

 ドキドキしてしまうではないですかっ、とあかりが思ったとき、来斗たちが飛び込んできた。

「ねーちゃん、ねーちゃん、ねーちゃんっ!」

 来斗~っ、と青葉が振り返り、何故か来斗を睨む。

 来斗は青葉に気づいて、うわっと慌て、

「社長、すみませんっ!」
と謝ったあとで、

「いやそのっ。
 実は、カンナさんのご両親にご挨拶することになってっ」
と言う。

「ええ? もうっ?
 すごいじゃないの」
とあかりは驚きながらも喜んだが、青葉は、

「お前、なに自分だけ順調に進んでってるんだ~っ」
と妙なことで怒っていた。

 だが、来斗は気にせず、青葉の手を握って言う。

「社長っ、客観的に見て、カンナさんのご両親って、どんな方ですか?」

 一言でっ、と来斗に言われ、青葉は、
「気難しい」
と言う。

「二言でっ」

「相当気難しい」

 ああっ、やっぱり~っ、と頭を抱える来斗に青葉は言う。

「だって、お前、カンナの親だぞ。
 こいつはお前に気があるから、お前にはやさしいだろうが。

 相当気難しいからな。
 そんなカンナの親だぞ。

 しかも、母親の方、うちの母親にそっくりだからな」

 もう駄目だ~っ、と来斗はどっかの苦悩するクマみたいにのたうち回る。

 いや……失礼ですよ、来斗。
 寿々花さんにそっくりと言われて、のたうつとか……。

 事前に情報がありすぎるのも困り物だ。

 来斗は、すっかり身構えてしまっている。

「あ、でも、来斗。
 寿々花さん、あんたのことはよくできた弟さんだって気に入ってるから。

 寿々花さんとカンナさんのお母さんが似てるのなら、気に入ってもらえるかもしれないわよ」

 側に立っていたカンナがこくりと頷く。

 来斗は喜んでいいんだか、なんだかわからない顔をした。

「あの、もしかして、家柄とかにもうるさいとか」
と心配して、来斗は青葉に訊く。

「かもな。
 でも、有能な人間なら、認められるかもしれないぞ。
 おじさんたち、人を見る目はあるから」

「そうよ、来斗っ。
 あんたは魔法の呪文も使えるしっ」

「そうだね、ねーちゃんっ。
 いざとなったらっ」
と姉弟は手を取り合う。

 青葉が、
「いや、そういう謎の有能さは求めてないと思うんだが……」
と呟き、カンナが、

「……来斗さんって可愛い」
と無表情なまま、頬を赤らめていた。

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