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ゼロどころか、マイナスからの出発
なんかキラキラしてる……
しおりを挟むあなたが着いて行きなさいよ、と寿々花にも言われたので、あかりは次の登園日には、日向を連れて幼稚園に行ってみた。
日向は、ヌンチャクをふりふり、ご機嫌だった。
ヌンチャク……
いや、上履きの入った巾着袋なのだが。
日向はこれを『ぬんちゃく』と呼ぶ。
ホールでみんなでお絵描きして遊んだあと、外に出る。
ぬんちゃくに上履きを詰めているとき、いっしょになった可愛い女の子と手をつなぎ、日向は砂場に走っていってしまった。
……手が早い。
あれは、ほんとうに青葉さんの子どもなのだろうか。
なんか大吾さんの血を引いてそうだ、と笑えないことを思いながら、その子のママさんたちと砂場の周りにしゃがんで話していた。
「おねーちゃん、手汚れたー」
女子たちに囲まれて遊んでいた日向が立ち上がり、手を見せながら、こちらにやってくる。
「あれっ?
ママじゃなくて、おねーさんなの?」
と一緒に遊んでいた女の子が言った。
「そういえば、若いねー」
「日向くんのおねーちゃん、中学生ー?」
いや、君ら、人の年の判断、どの辺でしてるんですか。
さっき、還暦近いという園長先生が短パンはいてただけで、若者だと思われていたようですが……。
「日向くんのお姉さんだったんですか?」
とママさんたちも驚いて訊いてくる。
「ずいぶん年が離れてらっしゃるんですね」
だが、そこで、除菌で手を拭いてやっていた日向がみんなを振り向き、言った。
「ぼくはねー、おねーちゃんから生まれてきたんだよー」
――!?
「お腹の中にいたとき、おねーちゃん、アイス食べてた」
子どもは二歳くらいまで、お腹の中にいたときのこととか、前世とか語ったりするとか言うけど、ほんとうのようだ……。
日向はどうやらまだ、お腹の中にいたときの記憶があるらしい。
『アイスを食べていた私』の記憶が、日向の前世の記憶でなければの話だが――。
「産んでくれた人は、おかーさんって言うんだよ」
と隣にいた女の子が日向に教えていたが。
日向は寿々花に似た透明感のある茶色い眼で、みんなを見、
「だって、おねーちゃんって呼べって言うんだもん」
と言った。
みんながどっと笑う。
「あらあら、ママ、おねーちゃんって呼ばれたいのね」
「わかるわかる。
私なんてまだ二十一なのに、旦那のお姉さんの子におばさんって言われてさ」
「うちの旦那なんか、子どもに父上って呼ばせてるわよ」
初対面なので、遠慮がちだった空気が一気に変わり。
その後、話が盛り上がったことはよかったのだが……。
あの……なんか私、痛い人みたいになっちゃってるんですけど……。
『ママ友できました』という文章とともに、あかりは寿々花に日向が楽しく遊んでいる写真を送った。
砂場で女の子に囲まれている日向。
男の子たちと鉄棒にぶら下がっている日向。
寿々花から、重々しく、こくりと頷くうさぎのスタンプが送られてきた。
お喜びいただけたようだ……。
ふと思いつき、青葉にも送ってみようかと思ったが。
よく考えたら、画像を送れるような連絡先を知らなかった。
会社のアドレスに送るわけにも行かないしな、と迷ったが。
「なんだかんだで、俺は日向が一番可愛い時期を見逃したわけですが」
という青葉の言葉を思い出し、来斗に送ってみた。
「これ、社長に見せて」
とメッセージをつけると、
「何故、社長にっ!?」
と入ってきたが、しばらくして、
「お前の連絡先、社長に教えていいか」
と返ってきた。
「いいよ」
と送ると、青葉があかりを友だち追加したようだった。
「写真、ありがとう」
という言葉とともに、キラキラした顔のうさぎのスタンプが送られてくる。
リアルな青葉が、こんな祈るような仕草でキラキラして礼を言ってくることなんてないと思うのに。
スタンプって不思議だな。
まあ、適当にそれっぽいのを送っているだけなのだろうが。
……それにしても、親子で何故、うさぎ、と思いながら、あかりはキラキラしたうさぎを眺めていた。
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