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ゼロどころか、マイナスからの出発
彼の顔を見るたび、思っている
しおりを挟む青葉が来たときあかりは、
あ、死んだはずの人が来た、
と思った。
いや、再会してから、彼の顔を見るたび、思っている。
もういなくなったはずの人が何故、ここに、と。
青葉とコバエについて語り、ネットショップについて語る。
青葉は、自分たちの過去を知る前と変わらない感じに話してくれている。
「……もうすぐ閉店じゃないのか?」
ふと青葉がそんなことを訊いてきた。
「いや、この店の閉店時間、知らないんだが……」
はい、私も知りません、と思う。
「まあ、決めてないですからね。
客が来なかったら、閉店、というか。
……じゃあ、ほとんどの時間、閉店中ですね」
と自虐的なことを言うと、
「だから、もうちょっと経営を見直せと言ってるだろう」
と言ったあとで、青葉が少し言いにくそうに言ってきた。
「帰り、送ってやるよ」
「えーと、いいですよ。
アパート、すぐそこなんで」
「送りたいんだ」
真っ直ぐに自分を見つめ、青葉はそう言ってくる。
なんなんですか、やめてください。
またあなたを好きになってしまうじゃないですか。
心の中で、もうとっくの昔に惨殺してるのに……。
ともかく、送る、と言い張るので、あかりは、
「じゃあ、戸締りします」
と立ち上がった。
どうせ客も来ないのに、青葉を待たせても悪いと思ったからだ。
あ、そうだ、とあかりはコップに水を汲んで、店の隅に持っていく。
「どうした?
乾燥してるのか? この店」
「いえいえ。
日向がおじいさんに水あげといてねって言うので」
「なにか憑いてないか、その人形っ」
「そういえば、子どもって、見えますよね。
そういえば、もうすぐ夏ですし。
怖い話、聞きたいですか?」
「結構だ」
「聞きたいですか?」
「結構だ。
いきなり、不思議なことを言い出すのは大吾だけで充分だ」
「大吾さん、見える人なんですか?」
と言うと、青葉は、しまった! という顔をする。
青葉的には、大吾の話題を出してしまったことに対する、しまった! だったのだが。
あかりは、霊が見える話しちゃいけなかったのかな、と思った。
まあ、妙な人って思われるもんな、と青葉に言ったら、
「いや、いきなり魔法の呪文を知ってるとか言いはじめるお前ら姉弟の方が怖いわ」
と言ってきそうだったが。
車に乗せてもらうのはじめてだな、と青葉の車の助手席であかりは思った。
まあ、そんな機会なかったもんな。
たった一週間だったから。
今は、一週間なんて、ぼうっとしてたり、日向の相手をしていたら、すぐに過ぎてしまうけど。
この一週間、なにがあったかな? と考えたら、思い出すのは、日向のしょうもない言動とお客様の笑顔くらいだった。
……この人が車で突っ込んでくるまでは。
慌てふためいて店に入ってきたときの、すみません、と青ざめた青葉の顔を思い出す。
「なに思い出し笑いしてるんだ?」
「え?
あー……
日向のこと思い出して。
あの小さな頭の中、どうなってんだろうなと思って。
今朝もちょっと寄ったら、拳銃持って、警察を捕まえようとしてました」
「……いや、お前は何者なんだって感じだな」
と青葉は言う。
変な感じだな。
ずっと夢見ていた気がする。
こんな風に二人で日向の話をすること。
……でも、妙な距離があるよな。
今や赤の他人だし、仕方ないけど。
赤の他人なのに、子どもがいる不思議――。
普通の夫婦だって、そんなものだと寿々花さん辺りが言いそうだけど、とあかりが思ったとき、青葉が言った。
「……大変なときに付いててやれなくて悪かった」
「え?」
「妊娠したり、出産したり……子育てとか」
この人がこんなこと言ってくれる日が来るなんて思わなかったなー、
とぼんやり考えながら、あかりは笑う。
「大丈夫ですよ。
みんなついててくれましたから」
「まあ……そうだろうけど」
「出産中、ずっとあなたのことを考えていました」
アパートはすぐそこだ。
もう着くのに、こんな話わざわざしなくてもいいような気もしたが。
気にしてくれている青葉のために言った方がいいような気もしていた。
「ずっと、あなたが手を握ってくれている気がしたんです。
いや、握ってくれてたの、あなたのお母様だったんですけどね……」
「そんなところまで行ってたのか、うちの親……」
「それが、うちの親たちが、まだ出そうにないから、ちょっと家に帰って用事してくるって病院を出ていった直後に、生まれそうになって。
たまたま、寿々花さんがいらしたんです。
私は寿々花さんに手を握られ、あなたのことを考えながら、日向を産みました」
「俺のことって、恨み言でも考えていたのか」
いいえ、違います、とあかりは言った。
「初めて会ったときのこととか。
初めて手をつないだときのことを思い出していました。
あと、あなたの笑顔とか」
いなくなったあと、心の中で、惨殺しないと落ち着かないくらい好きだったから――。
「笑顔か。
今はお前を見て笑えないな。
……なんか緊張して」
だから、そういうことを言わないでください、とあかりは思う。
心の中で、自ら殺した過去の青葉を助け起こし、
「しっかりしてくださいっ」
と叫びそうになる。
――しっかりしてください。
起き上がって、もう一度、こっちを見てください、と。
そんなことを考えながらも、あかりは自らの心の内は語らずに、車を降り、ぺこりと頭を下げた。
青葉の車が消えるまで見送る。
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