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運命が連れ去られました

その職業は似合わない

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 青葉は見た。

 寿々花が通りをやってきたと思ったら、向かいから日向もやってきて。

「ぐらんま~」
と叫びながら、銃で寿々花を撃っていた。

 いや、まあ、弾は入ってないんだが……。

 ……子ども時代、横暴な母親にやり返したいと何度も思いながら、なにもできなかったのに。

 すごいな、日向。

 銃で撃つとは斬新だ。

 心の片隅にまだ住んでいた子ども時代の自分が日向を称賛していた。

 っていうか、ぐらんまってなんのことだ……。

 外に出ていた青葉は扉の前で小首を傾げる。

「……グランマと言えば、

 ……パン屋?」

 母、寿々花がパン屋の制服を着て、
「いらっしゃいませー」
と小洒落たパン屋でパンを売っているところを想像する。

 ……死ぬほど似合わない。

 あんな威圧的な目で見られたら、客はみな逃げ出してしまうことだろう。

 真希絵さんならともかく、うちの親がパン屋はない、と思いながら、青葉は呟く。

「グランマってパン屋で働いてて、日向と出会ったのかと思ったが……」

「何故、来斗と発想が同じなんです」
と遅れて出てきたあかりに言われる。

「でも、パン屋以外というと――

 グランマって、普通、祖母のことだろ?」

 青葉は自分の母親と、笑いながら、続けざまにその母親を撃っている、日向を見て言った。

「……そういえば、似ている。

 顔だけじゃなくて。
 可愛いが、ちょっと狂気を感じるところも……。

 だが、とてもじゃないが。
 祖母と孫には見えないぞ。

 なんだ、あの距離感」

「あの、木南さん。
 動揺されているせいか、考えていることがすべて口から出ていますが……」
と後ろであかりが言っていたが、構わず、青葉は言った。

「もしや……

 日向はうちの母親の隠し子の子!?」

「木南さんって、常に斜め上を行きますよね~」

 呆れたようにあかりが言った。

「記憶があってもなくても、変わらないですよね」
とあかりが言ったとき、寿々花が一瞬、鬼のような形相であかりを見たが。

 すぐに、ふっと肩の力が抜けたようになって言う。

「……もういいわ。
 今のは私の失態だし」

 そうですか、と淡々と言ったあかりが、
「お母さん、日向の耳を塞いで」
と言った。

 離れたところで、ぼんやり見ていたて真希絵が慌てて、日向の許に駆け寄ると、後ろから耳を押さえる。

 なんのことだかわかっていない日向はきゃっきゃと喜んでいた。

 それを確認したあとで、あかりがこちらを振り向く。

「木南さん、日向はあなたの子どもです」

「俺の?」
と言ったあとで、少し考えてから言った。

「……いや、産んだ覚えはないんだが」

「なんであなたが産むんですか。
 動転してますね?

 産んだのは私です」

「なんでお前が俺の子を産んでるんだっ。
 まだ告白もしてないのにっ」

「……告白?
 なんの話ですか?」
とあかりが眉をひそめ、寿々花が、ふう、と溜息をついた。

「木南さん。
 日向は、あなたが記憶を失っていた一週間の間に、お作りになったあなたと私の子どもです」

 えっ?
と動転する青葉を見据え、あかりは言う。

「あなたであってあなたでない。
 もう消えてしまった青葉さんと私の子です、木南さん」

 まだちょっと早い蝉が街路樹にとまって鳴きはじめ。

 その下では、日向が耳を押さえられ、きゃっきゃと喜んでいる。

 十二時になったら、街に流れるメロディが何処からともなく聞こえてきた。

 あかりは、その音を追うように顔を動かしたあとで、みんなを見回して言う。

「……出前でもとりましょうか」


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