ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
35 / 86
運命が連れ去られました

夢を語るお前が好きだ

しおりを挟む
 

「そうか。
 夢を語るお前が好きだぞ、いい大人なのに」

 なんかディスられている……。

「ところで、あいつらが付き合うついでに、俺たちも付き合わないか」

「えっ?」

「青葉とはもう終わったんだろ?」

 はあ、主に、あなたと寿々花さんのせいで……と思っていると、
「だったら、俺と付き合っても支障はないだろう」
と大吾は言う。

「いや、何故、突然、そんな話に?」

「何故って、好きだからだろ」

「会ったばっかりですよ」

「数年前にも一度会ったぞ。
 あのときには、ただ、悪い女、と聞かされて会っただけだったが。

 よく話してみると、お前は面白い。
 悪い女でも構わん。

 たまには騙されてみるのも、いいかもしれん」

「いや……私が騙されることはあっても、私が騙すことはありませんよ」

「そうだな。
 お前、青葉にも騙されてるしな」

「別に騙されてはいませんよ」

「わからないじゃないか。
 青葉の心の中は誰にもわからないだろう?

 考えてみれば、俺と寿々花さんが、青葉はお前を騙していないと、あいつの普段の性格から推察して、勝手に思い込んだだけで。

 騙して捨てるつもりだったのかもしれないよな。
 だって記憶ないんだから」

「騙されていたとしても、私にとっては大事な思い出です。
 それに、どうせすべて過去のことだから。

 騙されていたのが真実だったとしても。
 今更、私の思い出に傷はつかないです」

 うん、そうか、と大吾は言った。

「じゃあ、俺と付き合おう」

 この人、ほんとうに准教授なのだろうか。

 この人の書いた論文は大丈夫ですか。

 ときどき発想が飛ぶんだが……。

「青葉がお前を騙してなかったとしても。

 一週間だったからよかったのかもしれないぞ。
 長く一緒にいたら、お互いボロが出て、別れてたかもしれない。

 いい思い出もだけど、悪い思い出も積み重なっていくもんだからな。

 俺とだったら心配いらないぞ。
 フィールドワークで、あちこち飛び回ってて、そんなに家にいないから」

 予知夢っ。

 だいたい、夢のセリフと合ってるっ。

 いや、そんな感じの人だから、そう言うと思っただけか。

 そのとき、日向が走ってやってきた。

「いっちばーんっ」
と日向が笑顔でガラス扉を押し開ける。

 嬉しそうな日向の頭の上で、幸せの鐘のようにドアチャイムがカランカランと鳴った。

 ……一番って、二番はいるのか、このかけっこの。

 まさか、そこで、ふうふう言ってるうちの母親か、と思いながら、ガラス扉の向こうの、ボロボロになって追いかけてきたらしい真希絵を見る。

 最近、日向の足が速くなって、走り慣れてない大人は、いつも、死にそうになって追いかけている。
 
「おお、……なんか寿々花さんにそっくりな子が」
と大吾が呟く。

「やめてください。
 日向に身構えてしまいそうだから」

「まさか、青葉の子か?
 子どもがいたのか。

 それは忘れられないな」

 よし、わかった、と大吾はその場にしゃがみ、日向に向かって両手を広げた。

「来い、子ども。
 俺が父親だ」

 ひーっ。
 待ってくださいっ。

 日向は私の弟ということになっていますっ。

 日向は、
「父親ー」
と言われるがままに叫び、大吾の腕に抱きついた。

 ……たぶん、父親がなんなのかいまいちわかってないな、と思う。

 お父さん、自分のことをいっくんと呼ばせてるしな。

「ほう。
 子どもは苦手だと思っていたが。

 懐かれると可愛いもんだな」

 そう言いながら、大吾は、ひょっと片腕で日向を抱き上げた。

 そのまま、日向の重さを使って、筋トレとかはじめそうだ、とあかりは思う。

 息を切らせたまま入ってきた真希絵が言う。

「青葉さん?
 お仕事中じゃないんですか?」

 この間、青葉が日向の面倒を見ていたせいか、真希絵の青葉への当たりが柔らかくなっていた。

 体力勝負の子どもの面倒。

 上手く見てくれるものは、みな神!
という気持ちはよくわかる。

「父親ーっ」
とそれが彼の名だと思っているらしい日向は大吾の腕にぶら下がり、持ち上げてもらったりして、楽しくきゃっきゃっと遊んでいる。

 ……ヤバイ。

 日向が大吾さんを父親と呼ぶのもまずいが。

 大吾さんがお母さんにとって、一番の神になってしまいそうで、まずい……。

 だが、そこで日向が言った。

「まーちゃん、この人、おにーちゃんじゃないよ。
 おにーちゃん、こんなことしてくれないー」

 子ども、すごいな……。

 大人の方がいろいろ惑わされて見破れないのに。

 っていうか、今、日向の中で、青葉さんより、大吾さんの方が上になったな、と思いながら、あかりは見ていた。

「えっ? じゃあ、誰……っ」
ともらした母親に、日向を持ち上げたり下ろしたり、筋トレ状態でしながら、大吾は言う。

「初めまして。
 青葉の従兄で、お宅の息子さんの彼女の兄です」

 あの、なんか更に話がややこしくなってますが……、
とあかりが思ったとき、大吾は、

「満島大吾です」
と真希絵に片手で器用に名刺を渡した。

 そこには有名私大の准教授だと書いてあった。

 なんか勝手に体育大だと思っていたが、違った……。

 そういえば、フィールドワークとか言ってたな、と真希絵と一緒に覗き込みながら、あかりは思う。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

御曹司の執着愛

文野多咲
恋愛
甘い一夜を過ごした相手は、私の店も家も奪おうとしてきた不動産デベロッパーの御曹司だった。 ――このまま俺から逃げられると思うな。 御曹司の執着愛。  

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

処理中です...