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運命が連れ去られました

夢を語るお前が好きだ

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「そうか。
 夢を語るお前が好きだぞ、いい大人なのに」

 なんかディスられている……。

「ところで、あいつらが付き合うついでに、俺たちも付き合わないか」

「えっ?」

「青葉とはもう終わったんだろ?」

 はあ、主に、あなたと寿々花さんのせいで……と思っていると、
「だったら、俺と付き合っても支障はないだろう」
と大吾は言う。

「いや、何故、突然、そんな話に?」

「何故って、好きだからだろ」

「会ったばっかりですよ」

「数年前にも一度会ったぞ。
 あのときには、ただ、悪い女、と聞かされて会っただけだったが。

 よく話してみると、お前は面白い。
 悪い女でも構わん。

 たまには騙されてみるのも、いいかもしれん」

「いや……私が騙されることはあっても、私が騙すことはありませんよ」

「そうだな。
 お前、青葉にも騙されてるしな」

「別に騙されてはいませんよ」

「わからないじゃないか。
 青葉の心の中は誰にもわからないだろう?

 考えてみれば、俺と寿々花さんが、青葉はお前を騙していないと、あいつの普段の性格から推察して、勝手に思い込んだだけで。

 騙して捨てるつもりだったのかもしれないよな。
 だって記憶ないんだから」

「騙されていたとしても、私にとっては大事な思い出です。
 それに、どうせすべて過去のことだから。

 騙されていたのが真実だったとしても。
 今更、私の思い出に傷はつかないです」

 うん、そうか、と大吾は言った。

「じゃあ、俺と付き合おう」

 この人、ほんとうに准教授なのだろうか。

 この人の書いた論文は大丈夫ですか。

 ときどき発想が飛ぶんだが……。

「青葉がお前を騙してなかったとしても。

 一週間だったからよかったのかもしれないぞ。
 長く一緒にいたら、お互いボロが出て、別れてたかもしれない。

 いい思い出もだけど、悪い思い出も積み重なっていくもんだからな。

 俺とだったら心配いらないぞ。
 フィールドワークで、あちこち飛び回ってて、そんなに家にいないから」

 予知夢っ。

 だいたい、夢のセリフと合ってるっ。

 いや、そんな感じの人だから、そう言うと思っただけか。

 そのとき、日向が走ってやってきた。

「いっちばーんっ」
と日向が笑顔でガラス扉を押し開ける。

 嬉しそうな日向の頭の上で、幸せの鐘のようにドアチャイムがカランカランと鳴った。

 ……一番って、二番はいるのか、このかけっこの。

 まさか、そこで、ふうふう言ってるうちの母親か、と思いながら、ガラス扉の向こうの、ボロボロになって追いかけてきたらしい真希絵を見る。

 最近、日向の足が速くなって、走り慣れてない大人は、いつも、死にそうになって追いかけている。
 
「おお、……なんか寿々花さんにそっくりな子が」
と大吾が呟く。

「やめてください。
 日向に身構えてしまいそうだから」

「まさか、青葉の子か?
 子どもがいたのか。

 それは忘れられないな」

 よし、わかった、と大吾はその場にしゃがみ、日向に向かって両手を広げた。

「来い、子ども。
 俺が父親だ」

 ひーっ。
 待ってくださいっ。

 日向は私の弟ということになっていますっ。

 日向は、
「父親ー」
と言われるがままに叫び、大吾の腕に抱きついた。

 ……たぶん、父親がなんなのかいまいちわかってないな、と思う。

 お父さん、自分のことをいっくんと呼ばせてるしな。

「ほう。
 子どもは苦手だと思っていたが。

 懐かれると可愛いもんだな」

 そう言いながら、大吾は、ひょっと片腕で日向を抱き上げた。

 そのまま、日向の重さを使って、筋トレとかはじめそうだ、とあかりは思う。

 息を切らせたまま入ってきた真希絵が言う。

「青葉さん?
 お仕事中じゃないんですか?」

 この間、青葉が日向の面倒を見ていたせいか、真希絵の青葉への当たりが柔らかくなっていた。

 体力勝負の子どもの面倒。

 上手く見てくれるものは、みな神!
という気持ちはよくわかる。

「父親ーっ」
とそれが彼の名だと思っているらしい日向は大吾の腕にぶら下がり、持ち上げてもらったりして、楽しくきゃっきゃっと遊んでいる。

 ……ヤバイ。

 日向が大吾さんを父親と呼ぶのもまずいが。

 大吾さんがお母さんにとって、一番の神になってしまいそうで、まずい……。

 だが、そこで日向が言った。

「まーちゃん、この人、おにーちゃんじゃないよ。
 おにーちゃん、こんなことしてくれないー」

 子ども、すごいな……。

 大人の方がいろいろ惑わされて見破れないのに。

 っていうか、今、日向の中で、青葉さんより、大吾さんの方が上になったな、と思いながら、あかりは見ていた。

「えっ? じゃあ、誰……っ」
ともらした母親に、日向を持ち上げたり下ろしたり、筋トレ状態でしながら、大吾は言う。

「初めまして。
 青葉の従兄で、お宅の息子さんの彼女の兄です」

 あの、なんか更に話がややこしくなってますが……、
とあかりが思ったとき、大吾は、

「満島大吾です」
と真希絵に片手で器用に名刺を渡した。

 そこには有名私大の准教授だと書いてあった。

 なんか勝手に体育大だと思っていたが、違った……。

 そういえば、フィールドワークとか言ってたな、と真希絵と一緒に覗き込みながら、あかりは思う。

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