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運命が連れ去られました
乗っとられましたっ!
しおりを挟む「ともかく、私はなにも罠なんて張ってません。
達人のおばあさんを調達してきたりとか。
そんなすごいことできるのなら、こんなところでしょぼい店なんてやってません」
とあかりは主張する。
「ちょっとあなた、自分でしょぼいなんて言ってどうするのっ」
とあかりは、いきなり寿々花に怒られた。
「この店、そう悪くないわよ。
ちょっと人目につきにくい感じの店なだけでしょ。
この私が友人への手土産を買いに来るくらいだから、あなたのセンスは間違ってないわ。
私は、どんな知り合いの店だろうと、気に入らないと買わないから」
と突然の叱咤激励をされる。
……なんかあの、ありがとうございます、と思った。
確かに、寿々花のことだ。
気に入らない店なら、どんなに忖度の必要な相手の店でも、
「なにこれ、私が来る価値ないわね」
とか言い出して、周りを慌てさせそうだ。
そのとき、寿々花のスマホが鳴った。
これから訪ねていく、この間のご友人が、用事はもう終わったから、早めにいらっしゃったら? とかけてきたらしいのだ。
「ありがとう。
今、あかりさんのお店にいるの」
すると、彼女は、あら、と声を一オクターブ高くして言った。
「この間の上品なお嬢さん。
お話も合いそうだし。
今日、ご一緒にいらしたら?
みんなで堀様のお話でもしましょうよ」
そのとき、
「あかりー、暑いからなにか飲ませてー」
と母、真希絵がハンカチで顔を扇ぎながらやってきた。
寿々花の姿を見て、あからさまに後退していこうとする。
「真希絵さん、今、お暇?」
といきなり言われ、真希絵は、え? は? ええ、と寿々花の迫力に押されて、頷いている。
「あなた、このお店の店番、なさらない?
私のお友だちが、あかりさんとお話ししたいと言っているの」
「い、いえ、日向が待ってますので」
と買い物に出てきただけらしい真希絵は言うと思っていた。
だが、
「わかりましたっ」
と真希絵は何故か目を輝かせて言う。
「あかりにもたまには息抜きが必要ですものね。
お任せくださいっ」
お任せください、オーナー! な勢いだったが。
お母さん、オーナーは私です……とあかりは思う。
「あかりをよろしくお願いいたします」
と言った真希絵は上機嫌でカウンターの中に入ってくる。
たまたま現れたお客に、いらっしゃいませ~と楽しそうに言っていた。
……そういえば、子どものころから、お店屋さんごっこだけはよく付き合ってくれてたな。
やりたかったんだな、きっと……。
「ああ、あかり。
手土産に、浜野屋のお菓子買っていきなさい。
お母さん、連絡しとくから」
と真希絵は言う。
はーい、とあかりは胸につけていた店長のネームプレートを外す。
いやまあ、オーナー兼店長しかいないんだが、この店……と思いながら。
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