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強力なライバルが現れました
犯人が来ました
しおりを挟むそんな風に将生や琳が揉めている頃、とある犯人が猫町3番地を訪れていた。
琳の傘をすり替えた犯人だ。
スーパーを出たあと、立ち寄った書店の入り口で見たフリーペーパーに、この猫町3番地が出ていて。
美しい女店主も載っていたのだ。
あの人は喫茶店の人だったのか。
誰でも入れる喫茶店に居ると知ったら、行ってみたい衝動が止まらない。
危険とわかっていて、つい、此処まで来てしまった。
傘を傘立てではなく、見えない位置に置いたあと。
玄関の庇の下で、店を入るかどうか迷っていると、美しい女店主がこちらに向かいやってきた。
後ろを向いて話しながら、出てきた彼女は、
「この傘ですよ」
と言いながら、自分がすり替えたあの傘を傘立ての中からつかむ。
ひっ、と心臓が縮み上がる心地がした。
そこでようやく、女店主はこちらに気づき、あら、という顔をした。
「いらっしゃいませ。
どうぞ」
と微笑まれ、つい、ふらふらっと店の中に入ってしまう。
店舗の中は、予想通りのいい雰囲気だった。
まるで森林の中にいるような心地よい空間。
……なのだが、女店主が傘をつかんだままなのが気になった。
彼女は、
「この傘です。
似てるでしょう?」
と言いながら、何故かカウンターまであの傘を持って行く。
カウンターには驚くような男前で体格のいい男が座っていた。
その横には細身でちょっと年配の男。
反対側には、ぽっちゃりとした、ちょっと安心感のある男が居た。
全員スーツ姿だ。
何処かの職場の人たちが来てるのかな、とそちらを窺いながら、隅の席に腰掛ける。
すると、いきなり、前の席のおばちゃんが振り返り、声をかけてきた。
「ちょっとあんた」
ひっ。
できるだけ気配を消して、片隅に居るのに、なにかご迷惑おかけしましたかっ? と身構える自分に、おばちゃんは言った。
「そんな隅っこに座らなくても。
あっち空いてるわよ、窓際の席。
今日はあの辺の席が指定席な人たちが来てないから。
庭、少しライトアップしてあるから綺麗よ。
手入れも行き届いてるし」
まあ、琳ちゃんが手入れしてるわけじゃないんだけど、と人懐こいそのおばちゃんは笑う。
は、はあ、ありがとうございます。
大丈夫です、と返事をしながら、
まずいな、常連客が多い店なのか。
じゃあ、片隅に居ても目についてしまうな、と思ったとき、カウンターの前に立つ女店主が傘を見ながら話しているのが聞こえてきた。
「私が犯人で、この傘が凶器なら、先端で喉を突いたりはしませんよ」
え……、と固まり、カウンターを見たとき、さっきのおばちゃんが小声になって言ってきた。
「あんた、此処で見聞きしたこと、言っちゃ駄目だよ。
あの人たち、刑事さんで、事件の話してるんだから」
ええっ? 刑事っ?
将生は刑事ではないのだが、おばちゃんたちにとっては、刑事も監察医も全部同じ警察の人、という認識でしかなかった。
何故、刑事があの傘を……。
っていうか、喉を突いたってなにっ!?
メニューを持つ手がつい震えてしまう。
「お前がそう言い切る理由も気になるが。
その話を聞く前に、まず、あそこのお客さんのオーダーとってこい」
と真ん中に座っていたイケメンがこちらを見ながら、あの女店主に命じる。
……この人は刑事ではないのだろうか?
店のオーナーとか? と思ったとき、水の入ったトレーを手に、みんなに、雨宮さんとか、琳ちゃんと呼ばれている、その女店主が苦笑いして、やってきた。
「すみません。
注文決まりました?」
遠目に見ていただけのときは、透明感のある美人だな、と思っていたのだが。
実際に話したりすると、愛嬌があって可愛い感じだ。
それにしても、そんなことを今、考えているだなんて、我ながら呑気なことだ。
そう思いながら、とりあえず、ブレンドを注文した。
「はい、謎のブレンドですね」
うっかり、と言った感じでそう言った雨宮琳は、
え? 謎の? という顔をしたこちらに気づき、
「あ、いえ。
普通のブレンドです。
ブレンド1入りましたー」
とカウンターに向かって言い、あのイケメンに、
「なんでこっち向いて言う。
俺に淹れさせるつもりかっ」
と静かに怒られていた。
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