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第三の殺人

お前には根本的な問題がある

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「玲子さんが霊になってもまだ持っている、あの封筒のせいで誰かが死んだんじゃないかしら?」

 もう一度、彩乃がそう言うと、峻は少し考えるような顔をしたあとで言ってきた。

「だが、山村の件はもう解決しているし……。

 次朗さんは玲子さんのことなんてなにも言ってなかった。
 少しでも、別の誰かに事件の原因があるのなら、全力でそちらに向かって丸投げしそうな人なのに。

 そもそも次朗さんは、今回、玲子さんとは出会ってなかったみたいだし。
 普段からの接点もないよな」

 次朗の弁護を引き受けた峻が知らないのだから、確かに山村の件とはなにも関係ないのだろう。

「じゃあ、やっぱり、緋沙実さんと小野田さんの件かな」
と彩乃は言った。

「緋沙実さんは、融おじさまのせいで小野田さんに浮気がバレ、くびり殺された。
 小野田さんは、その後、自殺」

「でも、それも、玲子さんの出番はないじゃないか」
と峻は言う。

 だが、彩乃が、
「うーん、そうよねー。
 そもそも、玲子さん、この一連の事件にはなにも関係ないもんね」
ともらすと、峻は逆にその言葉を否定してくる。

「いや、まったく関係ないってことはないだろう。
 だって、緋沙実さん、玲子さんの母親なんだし」

 えっ? と彩乃は訊き返していた。

「誰が誰の?」

「緋沙実さんは玲子さんの母親だろ?」

「えっ? そうなのっ?」
と思わず、彩乃は叫んでいた。

「全然、仲良さそうじゃなかったんだけどっ。
 じゃ、さっき言ってた、玲子さんの『あんな母親』って緋沙実さんのことなのっ?」

「お前……、玲子さんの母親が誰だかも知らずに適当に相槌打ってたのか」
と呆れたように見られて、彩乃は、いやいやいや、と慌てて言いつのる。

「だって、この雨屋敷の女の人たち、みんなそんな感じだしっ」

 思わず、本音がもれて、大暴言を吐いてしまった。

 緋沙実や映子に聞かれたら、吊し上げられるところだろう。

「っていうか、玲子さんも昔は此処、住んでただろ」

 なんで気づかなかったんだ、と峻には言われたが。

「いや、だって、此処、人多すぎるからっ。

 昔はもっと多かったじゃない。
 玲子さんが住んでたときとか。

 食事のときなんか、広間にいつも宴会みたいに、ずらっとみんな並んでて。
 子どもたちは子どもたちで群れて座ってたし。

 親がわかる子は、むしろ、他所よそに住んでた子よ、親と一緒に来るから」

 あんたみたいに、と彩乃は峻に言った。

「谷本さんたちも、緋沙実さんと玲子さんが親子だなんて教えてくれなかったし」
と呟く彩乃を峻は冷めた目で見て、

「……此処の住人がまさか、そんな根本的な人間関係を知らないとは思わないだろうよ」
と言う。

「あ、でも、そういえば、緋沙実さんの葬儀の打ち合わせ、さっき信子さんたちがしてたけど。
 喪主、違う人だったわよ?」

 峻が、往生際悪いな、という顔をしたあとで、教えてくれた。

「あれは長男のまなぶさん。

 お前、じっと座ってられなくて、信子さんたち手伝うフリして、チョロチョロしてたろ。
 間で、玲子さんも覗いてたぞ。

 そもそも、緋沙実さんの遺体が見つかったあと、玲子さんずっと遺体に寄り添ってたじゃないか、香奈さんと一緒に」

「……優しいからかと思ってた」
と言って、阿呆か、と言われる。

「そもそも、お前、自分が融さんの子どもなのかもと思っていたのなら、玲子さんや学さんとは兄妹になるわけだろ。

 なんで、気にしてなかったんだ、融さんと緋沙実さんの子どものことを」

 そう言われ、彩乃はそっと肩に手をやると、後ろを振り返るようにして言った。

「本気で疑ってるわけではなかったからよ。
 自分が融おじさまの子どもだなんて」

 でも、そうだといいなと思ってた、と言って、峻に言われる。

「荘吉ジイさんの子だと、嵩人とは叔母、甥の関係になるからか」

 彩乃は黙ったあとで、
「霊も勘違いすると思いたかったのよ」
とだけ言った。

 ……霊? と峻は訊き返して来たが、彩乃はもう別のことを考えていた。

「玲子さんは緋沙実さんと融おじさまの娘だったのか。

 なんだ。
 じゃあ、事件は簡単ね」

 なにが簡単なんだ、という顔を峻はする。


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