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第三の殺人

今日は落ちるぞ

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 清水たちは玲子を探しに行き、彩乃は、こちらには気づかぬように、テーブルの上に何度も封筒を並べている玲子を見ていた。

「封筒……なにかしら。
 ……峻?」

 そのとき、彩乃は峻が青ざめた顔で、テーブルの上を見ているのに気づいた。

 二通の封筒。
 A4サイズのよくある茶封筒だ。

「彩乃」
「なあに?」

「俺に玲子さんを探せないだろうか。
 同じ霊体なんだから」

「霊体だろうが、普通に探すことしかできないわよ。

 生き霊になるってことは、単に、普段入ってる器なしで歩いてるってだけのことで。
 急に超能力者とかになるわけじゃないんだから。

 どうかしたの?」

「いや、物干し場から落ちる前、この茶封筒を見た気がするんだ……」

 そう峻は言った。



 外から戻ってきた嵩人は玄関前の広い廊下で、屋敷の捜索をはじめようとしていた清水たちと出くわした。

 彼らとともに手分けして玲子を探す。

 とりあえず、彼女が泊まっている離れに谷本と行ってみたが、玲子は居なかった。

 谷本はまた清水と合流するというので、嵩人は一人、玲子の霊が居るという台所に向かう。

 なるほど、確かに玲子は居た。

 廊下からもテーブルに何度も茶封筒を並べている玲子が見える。

 玲子は、その場でただ同じことを繰り返しているだけで、すぐ近くに居る彩乃たちにも気づいてはいないようだった。

 こちらに背を向けている彩乃と峻がその茶封筒について話している。

 峻の横顔がらしくもなく、青ざめているように見えた。

 その顔を見ながら、嵩人は思っていた。

 最初の事件のとき、何故、玲子さんの生き霊は此処に現れたんだろうか。

 彼女はなにか心に引っかかることがあって、身体より先に魂がこの雨屋敷に来てしまっていたのではないだろうか。

 そう思った嵩人は、普段はあまり上がらない二階への階段を上がっていった。

 中程まで来たとき、ふいに、
「落ちるぞ」
と言う男の声が耳許でした。

「落ちない」
と嵩人は霊の方を見もせずに言ったが、

「今日は落ちれるぞ」
とその霊に言われてしまう。

 どういう意味だ? と思いながらも、屋上まで上がった。

 すると、
「あら、意外な人が来た」
と極普通の口調で、こちらを見て言う玲子が居た。

 彼女の足許には倒れている玲子の本体と、薬のビンと水の入ったペットボトルが転がっている。

「玲子さん」
 強い風が吹く屋上で嵩人は呼び掛けた。

 二時間サスペンスだったら、犯人に突き落とされかねない状況だなと思いながら。

「もしかして、峻を突き落としたのは貴女ですか?」

 そうだったら、此処にも出るかも、と思い、来てみたのだ。

「突き落としたってのは、ちょっと言いすぎね。
 動揺して、突いちゃったっていうか」
と玲子は、あっさり認めたあとで、

「なんでわかったの?」
と訊いてくる。

「さっき下で封筒を二通持ってたじゃないですか。
 あれを見て峻が顔色を変えていた。

 もしかして、突き落とされる前にそれを見たことを思い出したのかなと思ったんです」
と言うと、なるほど、と玲子は笑う。

「ああいう動きってさ。
 私がやりたくてやってるんじゃないのよ。

 心に引っかかってることを繰り返してしまうのよね」

 ほぼ死霊になってるからかしらね。

 そう玲子は足許に転がる自分を見ながら、少し寂しそうに言ってきた。


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