雨屋敷の犯罪 ～終わらない百物語を～

第三の殺人

呪われた屋敷だからって、変ですよ

「山村のおじさまに始まる立て続けの事件。
　おじいさまの遺言のことがあるにしても事件が起こり過ぎです。

　山村のおじさまの件に関しては、まあ、遺言のせいでしょう。

　普段から諍いさかっていたところに、あの遺言で。
　お前、財産目当てに養子に出た上に、此処の遺産まで狙うのか、となってやってしまったんでしょう」

　仏壇の霊に唆そそのかされて、と彩乃は言う。
　
「でも、そのあとに続く、緋沙実さん、峻、小野田さんはどうでしょう？
　あの三人、殺す理由あります？

　遺言絡みなら、まず私を狙うのでは？」

　そう彩乃は言った。

　確かに。
　この雨屋敷を得たいのなら、まず必要なのは彩乃を排除することだ。

　そう清水も思う。

「あれには別の理由がある気がするんです。

　そして、一度に次々、殺しがあるのも変です。
　幾ら呪いの雨屋敷でも。

　警察の皆さんも、此処が雨屋敷だということと、相続争いが勃発しているということで、違和感を覚えなかったのでしょうが、変ですよ。

　なので、私、思ったんです。

　全然、別の理由によって、緋沙実さんが殺され、それ絡みで小野田さんが亡くなったのではないかと。

　小野田さん、此処に住んではいないはずなのに、人を覚えない私でさえ、よく見かけてました。

　それは……」

　彩乃はそこで一度、言葉を止めた。

　無表情だが、言ってもいいのかな？　という雰囲気が少し感じられた。

「……小野田は緋沙実の愛人だから」

　止めた彩乃の言葉を引き取るように融が、そう言った。

「小野田の方はずっとあの歳まで独身だったから。
　あっちは本気だったのかもしれないのに。

　わからない女だ。
　別の男と浮気してやがったんだ。

　その現場を見つけて、そっちに気を取られてたから見てなかったんだよ。
　次朗が上がっていくところを」

　もしかしたら、違う階段を上がって行ったのかもと思い、余計なことは言わなかったんだ、と融は言う。

「俺が死ぬとき――
　笑ってたんだよ、緋沙実」

「え？　雨戸の霊しか居なかったんじゃなかったんですか？」

「最初はな。
　俺がのたうち回って苦しんでるとき、緋沙実が来たんだ」

　思い出したんだ……と融は言う。

「俺が胸と喉を掻き毟むしって苦しんでいるとき、あいつはやってきて。
　その入り口のところから助けもせず、笑って見てた。

　それで、あいつに殺されたのかなと思ったんだ」

　その入り口のところから、のところで、自分たちの隠れている方を指され、清水は谷本とつい、ビクつく。

　まあ、どのみち、物理的に隠れたところで、霊である融には見えているのかもしれないが。

「なのに、小野田だけじゃなく、他の男とまで。
　なんとなく腹が立ったから、見せつけてやったんだ、小野田に」

「緋沙実さんの浮気をですか？
　もしかして、聡さんに協力させました？」

「……何故わかる」

　恐ろしい奴だな。
　やっぱりお前は俺の娘じゃねえ、と融は言う。