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第三の殺人
せめて、さて、と言え!
しおりを挟む三原署の刑事たちが一旦、引き揚げたので、白いソファの部屋に彩乃が行くと融が居た。
ソファに腰掛けた彼は肘掛に頬杖をつき、今は半分閉まっている雨戸の方を見ていた。
黙って、そういう憂い顔をしていると、若い頃、緋沙実が融に夢中になっていたというのもわからないこともないのだが……。
普段、あれだからな、と思ったとき、融が口を開いた。
「清水は松子の話をしたか?」
「ああ、はい。
あの二人のこと、ご存知だったんですか?」
「昔よく、部活帰りに清水が松子を送ってきてたからな。
当時は遠目に見てただけなんで、よくは知らなかったが。
……松子が死んで清水が捜査に来てたのは覚えてたんだが。
俺と心中したことになってたとは知らなかったな」
「おじさま」
なんだ? と融が振り向く。
「おじさまは何故、次朗おじさまが階段を上がっていったのを見てなかったんですか?」
「たまたま見てなかったんじゃないか?」
「この間まで、ずっと、あの廊下を行ったり来たりしてましたよね。
気づかないとかあるんですか?」
「……なにか気になることがあって、よそに行ってたのかもな」
この人がよそに歩いていくとか。
そのことが、まず、天変地異並みの異常事態なんだが、と思いながら彩乃は訊いた。
「気になることってなんですか?」
「さあ……なんだったかなあ」
と言う融は雨戸の方をぼんやり見ている。
そんな融の横顔を見ながら、彩乃は訊いた。
「おじさまですか。
緋沙実さんを殺したの」
融がこちらを振り向き、嵩人と同じことを言う。
「お前の話には前振りとかないのか。
それとも、さっきのが前振りなのか」
「場合によっては」
「……犯人問いつめるなら、せめて、さて、と言えよ」
と融は文句を言ったあとで、あの雨戸の方を見ながら、
「何故、そう思う?」
と問うてきた。
「いえ、なんとなく……」
と彩乃は言ったが、頭の中では、あちこちに散らばっていたピースが正しい位置にはまりつつあった。
「俺はそんな凶悪な霊じゃないし。
生きた人間を殺すほどの力もない」
そう言って融は笑う。
「そうですね。
でも、おじさまは実は頭の良い方なので、生きた人間を上手く操ってできるのではないかと」
「実ははいらんだろう」
と言ったあとで、
「いや、別に殺すつもりはなかったんだ」
あっさり、融はそう認めた。
いつも誰も何も、
思ったように事態は進まないから。
私は本当はいつも後悔ばかりしている――。
「おじさまですか。
緋沙実さんを殺したの」
そんな彩乃の声が白いソファの部屋から聞こえ、清水は、さっと身を潜めた。
後ろに居た谷本も視線で黙らせる。
おのれ、また勝手に推理しおって~っ、と思いながら、成り行きを注視していた。
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