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第三の殺人
嵩人のアリバイ
しおりを挟む彩乃は広い屋敷の中を嵩人を探し歩いていた。
すると、嵩人は薄暗がりの中、裏庭の瓢箪棚の下に座っていた。
嵩人は栽培をやめてしまったが、此処には信子さんたちが緑のカーテンとして育てている瓢箪があるのだ。
この棚のすぐ北側が信子たちの部屋なので、夏はこの瓢箪棚のおかげで涼しいようだった。
「嵩人、なんでアリバイがあるの?」
開口一番、そう訊いた彩乃に嵩人は眉をひそめ、言ってきた。
「お前の話には前振りとかないのか。
それは緋沙実の件のアリバイか?」
棚の下の木のベンチに座る嵩人は、彩乃から視線をそらすように上を見る。
瓢箪は鮮やかな緑のカーテンのようになっていて、夕方から咲く白く可憐な花を幾つもつけていた。
「俺にはアリバイがあるからいいと谷本さんに言われたんだが。
谷本さんの言うところのアリバイがなんなのか、俺にはわからないんだが……」
そう言い、顔をしかめる嵩人に、
「あんたにわかんないのに、刑事さん自ら証明してくれるなんていいことじゃない」
と彩乃は言う。
「あの時間、俺はただ部屋で寝てただけなんだがな。
いやいや、何も言わなくていいですから、と慌てた調子で言われて、それだけだった」
「もしかして、谷本さんが、枕許でずっとあんたの寝顔見てたんだったりしてね」
と言って、
「……真顔で恐ろしい冗談は止せ」
と言われてしまう。
確かに、いつも笑顔の谷本が、枕許に立って笑いながら嵩人を見下ろしているところを想像してみると、ちょっと怖い。
「あの晩の嵩人のアリバイを証明してくれたのは、谷本さんか。
……なるほど」
と腕組みした彩乃は呟いて、なにが、なるほどなんだ、という顔をされてしまう。
だが、それには答えず、彩乃はたくさんの白い花を見上げて言った。
「瓢箪、今年もいっぱい、なるかしらね」
「……瓢箪の話はよせ」
金角銀角の話か。
或いは瓢箪の中の女の眼でも思い出したのか。
嵩人が渋い顔をする。
嫌そうに俯く、その白い顔を見て、彩乃は珍しく笑ってしまった。
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