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第二の殺人
役に立たない霊だなあ
しおりを挟む「意味が分からないわ」
病院から帰ってきた彩乃は開口一番そう言った。
「私が病院に行って、本人が此処に居るってどういうこと?」
白いソファに峻は腰掛けていた。
足許の松子も見えているらしく、少し避け気味に。
部屋に入れるようになった融と、嵩人も居て歓談している。
「この家、こんなに人が居たんだな」
と峻は呑気なことを言っているが、いや、私は、そんな貴方がたの足許でずっと倒れている松子さんが怖いんですが、と彩乃は思っていた。
霊は怖くない自分でも、この倒れている白い松子がいきなり起き上がってきたら、悲鳴を上げてしまいそうだ。
「それにしても、峻。
なんで屋上から落ちたんだ」
と自分の事件の犯人さえわからないのに、融は峻の事件にクビを突っ込んでいる。
「……それが記憶がないんです。
何故、あそこに行ったのかも」
役に立たない霊だ。
いや、生き霊だろうが、死霊だろうが、大抵はそうなのだが。
ベラベラ自分がこうして突き落とされたとかしゃべり出す霊なんて居ない。
「あのー、おじさま。
峻のことも気になりますが、緋沙実さんが誰に殺されたのか、ご存知ないですか?」
「さあなー」
……そんなに軽く言っていいのか。
今、緋沙実さんが出て来たら、ボコボコにされると思うが、と思ったとき、
「こんばんばー」
と谷本が戻ってきた。
「彩乃さん、お疲れ様です。峻先生はどうでしたか?」
あ、本体の方ですが、と谷本は峻を見ながら付け加える。
後から来た清水は渋い顔をして、腕を組んでいた。
「うーん。わしにはなにも見えん」
「そうですね。
清水さんに見えたら、その瞬間に峻の身になにかがあったってことで」
と言ってやると、
「……おい」
と峻が言う。
まあ、実際、病院に行って、医者に、とりあえず死にそうにはない、と言われたからこそ、叩ける軽口だった。
みんなと話している峻を見ながら、そっと彩乃はその場を抜け出した。
玄関まで来たとき、後ろから、
「何処へ行く」
と呼びかけられた。
振り返ると、やはり、嵩人だった。
「いや、峻の着替えを取りに。
此処に来るのに、バッグに入れて来てるだろうと思って」
と言い訳したが、嘘をつけ、と言われてしまう。
「この間から、気になってることがあるんだろう」
と言われ、白状する。
「……融おじさまが、山村のおじさまが殺されたとき、上がってく次朗おじさまを見ていなかったことが、なんだか気になってたのよ」
彩乃は融がいつも歩くコースを歩いてみていた。
「なんで、融おじさまは見ていなかったのかしら」
と呟きながら、廊下を歩いていった彩乃は、聡の居るトイレの後ろに行き当たる。
「聡さん」
と声をかけながら覗いてみた。
またいつもの本を読んでいるんだろうと思っていたが。
聡は本を開いてはいたが、いつもと違い、ただ俯いていた。
「聡さん?」
ともう一度、声をかけると、……あ、ああ、とようやく振り向く。
「彩乃さん、嵩人さん」
「どうしたんですか?
顔色が悪いみたいですけど」
と彩乃が言うと、すかさず、嵩人が、
「顔色のいい霊って居るのか」
と突っ込んで訊いてくる。
いや、たまに居るではないですか。
やたら健康的で、なんでお亡くなりになりましたかと問いたくなるような霊が、と思いながら、彩乃は訊いてみた。
「聡さん、なにかありましたか?」
だが、聡は、いやいやと笑い、
「なにもないですよ。
私はもう死んでるみたいだから。
今更、私の人生になにかあるなんてことはありませんよ」
と言ってきた。
そうだろうかな、と彩乃は思う。
魂が確かにそこに存在しているのに、なにもないなんてことはない。
生きていようが、死んでいようが――。
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