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第一の殺人
そこらで観念してください
しおりを挟む「何故お前に見せなきゃならんのだ」
と次朗に言われ、
「そりゃそうですよね」
と言った彩乃は清水たちを見る。
清水は渋々、次朗に命じてくれた。
「すみませんが、スマホを出してみてください」
次朗は嫌そうに、スマホを出してきた。谷本がそれを受け取り、彩乃に渡す。
彩乃は開けてもらったスマホを確認しながら言った。
「ご存知でしょうが。
この家、霊のせいなのか、電波が入りません。
まあ、中庭とか、建物の中から出たら、比較的通じるんですけどね。
最近は、便利な世の中になって、なんでも、ネットで調べられます。
便器の外し方も」
ああ、という顔を谷本がした。
「でも、音を立てずに、素早くやる必要があるから、いちいちネットで調べながらやったとは思えないし。
第一、此処は電波が入りません。
なので、たぶん犯人はネットで呼び出した必要な箇所をスクリーンショットで撮っておいたと思うんです」
「彩乃!」
と嵩人が衝撃を受けていた。
「お前が、スクショを知ってたとは!」
いや、衝撃受けるの、そこ? と思いながらも彩乃は言った。
「そう。
私、いまいちスマホやタブレットの使い方がわからないんです。
普段、使うことないので。
ご年配の方にもそういう人多いですよね?
そして、消し方がわからないんです、そういう人って。
私もそうだからわかります」
そう言いながら、彩乃は次朗たちに向かってスマホを突き出し、その画面を見せる。
「知ってました? 次朗おじさま。
削除しても消えてないんですよ、スクリーンショットとか、写真って」
「何故だっ。
私は確かに消したのにっ」
と次郎は便器の外し方のページのスクリーンショットを見ながら叫ぶ。
「削除しても、もう一回消さないと、すぐには消えないらしいんです。
ずーっとスクロールさせてった下の方、『最近削除した項目』というところに残ってるんですよ。
私も知らなかったんですけどね」
そう彩乃は言った。
「コンピュータって、霊的なものに似てる気がするんですよね。
融通がきかないところとか」
最新の通信機器を使い慣れていない彩乃だからこそ、気づいたことだった。
使い慣れている人間なら、削除した項目まで当然消去してあるはずと思って、すぐには確かめはしないから。
「確かに突き落としたのは、私だっ」
と次朗が立ち上がる。
あ、認めた、という顔を嵩人たちがした。
「だが、殺したのは本当に私かっ?
俺は仏壇の霊にそそのかされただけだっ。
落ちた達夫の頭を石に叩き付けたのもあいつじゃないのかっ?」
「でも、仏壇の霊、もう人殺して満足して消えちゃったんで、話の聞きようがありませんしね」
と言った瞬間、彩乃は次朗に罵られていた。
「この人でなしがっ。
さすが、ちづるの子だなっ」
「……人殺しに人でなしと言われてしまいましたよ」
「金目当てに養子に出たくせに、雨屋敷も狙って、此処から出て行かなかったような奴、殺されて当然だろっ」
と叫ぶ次朗に、はいはい、と溜息をつきながら、清水が立ち上がる。
次朗の腕をつかんだ。
「清水っ。
お前はよく知ってるだろ、この雨屋敷の恐ろしさをっ」
清水は返事もせずに、次朗を連れて部屋を出ようとした。
「待ってください、おじさま。
おじさまは何処の階段を通って、上に上がられたんですか?」
「は? 玄関近くの階段だよっ」
と次朗は叫ぶ。
「でも、融おじさまはそれを見ていないとおっしゃってます。
どうやって、融おじさまに見られないように上がったんですか?」
「そんな小細工はしていないっ。
融は最初から居なかったんだっ」
おかしいですね、と彩乃は小首を傾げたあとで言った。
「ああ、あと、もうひとつ」
彩乃~っ、という顔を次朗がし、早瀬彩乃~っ、という顔を清水がした。
「すみません、おじさま。
聡さんは何処ですか?」
「あのトイレなら、しちにんびしゃくだっ」
彩乃が聡と話しているのを見て思い出したのだと言う。
事件の前に、あのトイレの側で山村といさかっていたことを。
「しちにんびしゃくでしたか。
今日、陶器、ガラス、ゴム類のゴミの日なので、そっち出したかと思ってましたよ」
「それで焦ってたのか」
と清水が言い、
「しちにんびしゃくってなんですか?」
と谷本が訊いてきた。
「人が入ると溶ける沼ですよ」
と彩乃は言ったが、
「……溶けなかったよ」
と小さく嵩人が反論していた。
「おじさま、あそこに捨てても、物は溶けませんよ」
「しちにんびしゃくには人が近づかないから、なんでも投げ込めるんだよっ。
くそっ、別の場所で殺して、しちにんびしゃくに投げ込めばよかった」
「そうですね。
では、次回はそのように」
と彩乃は言ったが、
「ま、数年は次回は無理だな。出て来られないだろうから」
そう言って、清水は今度こそ、次朗を連れていった。
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