雨屋敷の犯罪 ~終わらない百物語を~

菱沼あゆ

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第一の殺人

刑事さん、密室殺人です

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 相変わらず不気味な屋敷だ。

 谷本の奴、何処行きやがったんだ、と思いながら、清水は雨屋敷の中を歩いていた。

 数人の聞き込みを終えたあと、谷本は、
「あと他に誰が屋敷に居るか、彩乃さんに訊いてみますね~」
と言って出て行ったのだ。

 いや、信子さんたちに訊け、と思ったが、どうも谷本は、早瀬彩乃に会いたいようだった。

 まあ、なにせ、あの早瀬ちづるの娘だからな。

 大層な美女に育っていることだろう、と華やかな美貌の持ち主だった彼女の母親を思い出しながら、清水は思う。

 そのとき、あの玄関前のだだっ広い廊下で、谷本がちょっと恥ずかしそうに若い娘と話しているのが見えた。

 その娘は清潔感のある美しい娘だったが、あまり表情がなく淡々とした様子で、落ち着きなく浮かれた谷本とは対照的だった。

 あれが早瀬彩乃か。
 ちづるとは正反対な感じだな、と清水は思う。

 いろいろと浮き名を流した母親が反面教師となって、おとなしげな雰囲気の娘になったのかもしれない。

「谷本」
と清水が呼びかけると、谷本と彩乃がこちらを見た。

「あっ、清水さんっ」
と谷本が慌てる。

 早瀬彩乃にデレデレしているところを見られてしまったと思ったのだろう。

 一方、落ち着き払っている彩乃は値踏みするような目でこちらを見ていた。

 そのわった目を見ながら、なるほど。
 この雨屋敷を継ぐに相応ふさわしい雰囲気だな、と清水は思っていた。

 だが、近づいた清水に向かい、淡々とした口調で彩乃が言ってくる。

「刑事さん、密室殺人です」

 ……密室?

「山村達夫は屋上で殺されたんじゃなかったのか」

「はい。でも、屋上への出入り口である東西の階段を二十四時間見張っている人たちが居るので。
 あそこは犯行当時、ある意味、密室になっていたんですよ」

 母親に似ずに地味な感じで、母親と同じに聡明そうな娘に見えたのに。

 突然、阿呆なことを言い出した……。
 やはり、早瀬ちづるの娘だな、と思いながらも、
「誰が見張ってたって?」
と清水は訊いてみる。

「ひとりは階段の霊です。
 東側の階段にいつも居て、通りかかる人に、
『落ちるぞ』と警告しています。

 あの人が誰かを見逃すなんてありえません。

 夜中、トイレに行くときも、どんなに急いでいるときも、必ず、
『落ちるぞ』
と声かけてしてくれる人なんです。

 そして、東と西の階段を見張っているのは……」

「清水、まだ居たのか」
と今もそこを行ったり来たりしている首藤融すどう とおるがにこやかに話しかけてくる。

「そう。
 融おじさまです。

 清水さん、融おじさまとは古いお知り合いなんですよね?
 融おじさまも、なにも見てらっしゃらないそうですよ」

「あんたですか……」
と融を見ながら、清水が言うと、横から谷本が、

「誰と話してるんですか? 清水さん」
と訊いてくる。

 そんな谷本を見下ろし、融が笑って言った。

「おっ、こいつは俺が見えてないのかっ。
 役に立たねえ奴だな。

 この雨屋敷じゃ、生きてる人間も死んでる人間も一緒。
 両方見えなきゃ、事件なんて解決しないぞっ」

 そんな融の台詞は谷本には聞こえていないので、谷本はそれに被せるように言ってくる。

「も、もしかして清水さんって、見える人だったんですか……?」

 だが、その谷本の言葉に、今度は食い気味に彩乃まで喋り出した。

「そんな感じで、あちこちの霊が屋上からの出入り口を見張っていたんです。
 清水さん、これは密室殺人です」

「……いや、生きてる人間同士は被らないように喋れ」

 そう清水は、力なく言う。

 この娘に融さんに、谷本……。

 もはや、嵐の予感しかしないな、と思いながら。



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