8 / 70
第一の殺人
屋上は密室です
しおりを挟む「刑事さんって、普通、二人ペアで動くものなんじゃないんですか?」
谷本晃という刑事を死体が落ちてきた庭の方に案内しながら、彩乃は言った。
「いやあ、それが別の用事があるから、先行っとけって言われちゃいまして、はい」
童顔な谷本はちょっと恥ずかしそうに、そう言ってくる。
「その人、清水さんっていうおじさんなんですけどね。
この屋敷での事件はどうせ解決しないって言うんですよ」
言っておいて、あっ、すみませんっ、と谷本は謝ってきた。
「来たばっかりなのに、解決しないとか言っちゃって」
「確かに、なかなか難しいかもしれませんね。
特に今回は密室殺人ですしね」
と軽く頷きながら彩乃が言うと、谷本は驚く。
「えっ? 密室なんですかっ?」
と叫んだあとで、屋上を見上げ、
「……えっ? 密室?」
と口の中で呟いていた。
現場は何処も閉ざされてはいないようなのに。
どの辺が密室なんだろうな、と開放的な屋上を見上げ、谷本は思っていた。
なんだかよくわからないが、不思議な美女だ……。
ロクな噂を聞かない幽霊屋敷にひとりで先に行けと言われ、現場に着いたら、驚くような美女が出迎えてくれた。
早瀬彩乃と名乗ったその女性の美貌にどぎまぎしながら自己紹介すると、素っ気ない挨拶をされ、現場に案内された。
いや、素っ気ないというのとは違うか。
結構しゃべってくれるし。
ただ、あまり表情がないというか、と谷本は思う。
だが、そんな風に感じてしまったのは、単に、もうちょっとこの美女とお話ししてみたい、と自分が思ってしまったせいなのかもしれないが。
「そういえば、三原署の刑事さんたちはもういらしてるみたいですね」
と彩乃に言われ、
「はあ、事故の可能性も高いので、まだ、県警まで話は来ていなかったんですけどね。
高村先生の関係でちょっと……」
はは……と谷本は濁すように笑う。
首藤の跡取り息子である嵩人が代議士の高村の娘と婚約しているというので。
一応、県警も行っておけ、と上から言われ、清水とともに顔を出すことになったのだ。
先輩刑事の清水は、父親より少し年下のようだったが、どっしりとした骨太な体格と無精髭のせいか、もう少し上の年代に見える。
「あの屋敷に行っても無駄だ。
あそこで事件が起こって、まともに解決した試しがねえんだよ」
そんな清水の言葉を思いながら、谷本は屋上を見上げ、さっきから言おうかどうしようか迷っていたことを口にする。
「あの、彩乃さん。
密室って……。
この現場、何処も閉め切られてないように見えるんですが」
だが、彩乃は屋上を見上げながら、深く頷き、言ってきた。
「でも、あの屋上に犯人が出入りした形跡がないんですよ。
屋上への階段を誰も通ってないみたいだし、二階に潜んでいた人も居なかったみたいなんです。
或る意味、密室ではないでしょうが」
……この人、実は、やばい感じのミステリーマニアの人なのだろうかな、と思いながらも谷本は一応、彩乃に訊いてみる。
「それ、どなたに確認されたんですか?」
「いつも階段に居る人とか、いつも階段前の廊下をウロウロしている人とかにです」
「でもその方々、二十四時間体制で見張ってるわけじゃないですよね?」
「いえ、ほぼ二十四時間ですよ」
そう彩乃は言い切る。
此処、警備員でも居るのだろうか、と谷本は大きな屋敷を見上げた。
長男の会社の経営状態はおもわしくないないようだが。
まあ、これだけの屋敷なら、そういうこともあるかな、と思う。
谷本は屋上にある木製の物干し場を見た。
今風に言うなら、屋上テラスというか、ルーフバルコニーというか。
そんな感じになるのだろう。
物干しが二、三個置かれた、広いバルコニーのような場所だ。
山村は、あそこから落ち、下にあった厚みのある敷石に頭を打ちつけて亡くなったらしい。
玄関から池までの道に飛び飛びに置かれている大きな丸い敷石だ。
「やはり、事故なんじゃないですかね?」
刑事が一般人に意見を訊くのも変なのだが。
清水が居なくて心細いところに、この落ち着き払った彩乃が居たので、なんとなく訊いてしまったのだ。
すると、少し考えながら、彩乃は言ってきた。
「事故ではないと思いますが。
捕まえられる犯人が居るかどうか……」
そんな不思議な言葉とともに、彩乃は小首を傾げている。
その顔を見ていて気がついた。
「あれっ?
彩乃さんって、化粧されてないんですね」
日に当たったことがないかのような白く美しい肌に、ほんのり赤みのある唇。
よく見なければ、化粧していないことに気づけない。
あっ、でも、こんなこと訊いちゃって失礼だったかな、と谷本は思ったのだが、彩乃は特に気にする風でもなく、淡々と言ってきた。
「そうですね、滅多に。
私、ひとりでは化粧できないので」
なんでだろう?
不器用だから?
と谷本が思ったとき、
「刑事さん、早く捕まえてくださいっ」
と叫びながら、派手な着物を着た女が現れた。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートの威力はすさまじくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる