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雨が降らなくなりました
ソロキャンじゃなくなりました
しおりを挟む唯一、ダイダラボッチと会話ができる男、司に、萌子は電話してみた。
「そうか。
消えたか」
と予想していたように司は言う。
「ダイダラボッチは自分に似て、不器用な総司のことを心配していたからな。
奴が消えたということは、総司のことはもう心配いらないと思ったんだろう。
まあ、また、総司と同じくらい不器用そうな人を見つけたら、ひっついてるだろうから。
また何処かで会うかもしれないな」
萌子は元気のない総司に向かい、言った。
「……別れましょう、課長」
「いやなんでだ。
今、付き合いはじめたばかりだよな」
と言われてしまう。
「大丈夫だ。
予告もなく卒業式がはじまって、卒業証書が手渡された気分なだけだ」
いや、それ、なにも大丈夫じゃないですよね、と思ったとき、総司は萌子の手を取り、言ってきた。
「此処から踏み出せと、ダイダラボッチはずっと言っていってくれてたんだろうから。
俺に聞こえていなかっただけで。
だから……」
と総司は萌子を見つめてくる。
萌子は微笑み言った。
「また会えますよね? きっと。
ダイダラボッチ、不器用な人のところに憑くらしいから。
藤崎とかに憑いてるかもしれませんよね」
「……理かもしれないぞ」
と言い、総司も笑ってみせる。
ふたりで珈琲を沸かし、並べた椅子に座ると、ダイダラボッチの消えた星空を見上げた。
「そういえば、テント一個しかないですね、今日」
ソロキャンにならないな、と思って、萌子は言った。
「……一個しか持ってこなかったからな」
「とってきましょうか、神社の倉庫近いから」
「莫迦か、お前は」
「え?
なんでですか?」
「いや、別にいい……」
そこで、総司は振り向き言った。
「ウリーッ!
その生きた友だちに、お前は駆け抜けられないと教えてやれっ」
ウリの生きたウリ友だちが、ウリと一緒に走れる感じで、テントに突っ込んでってなぎ倒しかけたからだ。
二匹はこちらを向いて、真っ黒な瞳で見上げ、
わかったっ!
と頷いてくる。
が、すぐにまた、どどどど……と走っていってしまった。
つい笑ってしまったとき、総司と目が合う。
お互いがお互いの椅子から身を乗り出し、そっと口づけた。
目を閉じると、秋のはじまりを予感させる虫の音が山に響くのが聞こえてきた――。
数日後、萌子たちは山の中を歩いていた。
「すでにソロキャンである意味を見失ってるな」
と総司が呟く。
今日は猪目神社の裏山でキャンプだ。
この少し上の方に、総司の知り合いの土地があるので、そこでみんなでキャンプをやるのだ。
それぞれがテントを持ってきているが、寝るとき以外、ほぼ団体で動いている。
「でも、やっぱり、みんなでやると楽しいですよね」
キャンプで使えそうな木の枝やツルを探して、山の中を歩いていた萌子は、総司に訊いた。
「そういえば、あの穴、なんだったんですかね?
私が落ちた穴」
「さあな。
呪いの猪目神社の裏に突然空いた穴だし。
あやかしの出てくる穴だったりしてな」
ははは、と笑った萌子は、
「じゃあ、新しく課長に憑くあやかしとか出てくるかもしれませんね。
藤崎に霊が憑きやすいみたいに、課長にはあやかしが憑きやすいみたいなんで」
と言った。
茂みを抜けた先の地形に見覚えがあると思ったら、足許にあの穴があった。
ふたりでつい、覗き込むと、中には膝を抱えた一つ目小僧がいた。
総司は一つ目小僧と目が合ったようだった。
可愛らしい一つ目小僧が、総司を見て、にこ、と笑う。
青ざめる総司の横で、
……新しい仲間が増えそうな予感がする、と思いながら、萌子は苦笑いした。
完
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