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雨が降らなくなりました
ほんとうに降ってないっ
しおりを挟む萌子は掌を差し出し、空を見上げて言った。
「わあ、ほんとうに降ってない。
便利ですね」
「便利だが、まずいだろう」
と言う総司に、
「まずいですかね~?
たまたま濡れてない、と思ってくれるかもしれませんよ」
と言うと、
「今日くらいの雨なら、たまたまですむが。
接待ゴルフの最中、いきなりどしゃ降りになったりするとな。
傘もさしてないのに、俺は濡れてなくて、社長はびしょ濡れとか、非常に気まずいぞ」
と言ってくる。
「あ、それは気まずいですね~」
はは……と笑ったあとで、萌子は言った。
「でもまあ、私、接待ゴルフ行かないんで。
私に関しては大丈夫ですよ」
ありがとう、ダイダラボッチ、と天に向かって、萌子は拝む。
俺に気を使って大丈夫だと言ってくれているのだろうか。
純粋に、雨に濡れなくてラッキーと思っているのだろうか。
こいつの場合……、
どっちもかな、と思いながら、総司は置き傘を取りに、萌子と一旦戻った。
傘をさしていれば、濡れてなくとも、大丈夫だからだ。
お互い傘を手に、裏の郵便局に向かって歩く。
「私、思うんですが。
ダイダラボッチは、空の上からずっと、課長を見張ってるんじゃないですかね?」
「見張ってる?
俺がダイダラボッチにとって、まずいなにかを目撃して、ダイダラボッチにしゃべらないよう見張られてるとかか」
「……いや、身体のほとんどが空の上にあるダイダラボッチのなにを目撃するというんですか。
ダイダラボッチ殺人事件ですか」
「それだとダイダラボッチが殺されてるだろうが」
傘が時折、リズミカルに雨を弾く音を聞きながら、そんなしょうもない会話をする。
「いや、言い方が悪かったです。
課長に何事もないよう、見張ってるというか。
見守ってるんじゃないですかね? ダイダラボッチ。
きっと課長が好きなんですよ。
だから、課長が雨に濡れないよう、守ってくれてるんですよ」
「ダイダラボッチに感謝されるようなことも、好かれるようなこともした覚えはないが」
「そういうんじゃないと思いますよ。
私だって、別にウリになにもしてないですもん。
きっと相性なんですよ」
と雨の中喜んで走っているウリを見ながら、萌子は笑う。
なるほど……。
ところで、花宮。
その俺を見守ってくれているダイダラボッチは、今、お前の上にも雨を降らさなくなったわけだが……。
花宮にもダイダラボッチがとり憑いたわけではなく。
ずっと俺の側にいるせいで、影響を受けているだけなのではと思っていたのだが。
お前の説がほんとうなら、ダイダラボッチは、俺の心が花宮に傾いているのに気がついて。
俺といっしょに花宮のことも守ろうとしてくれているのでは――。
ということは、
俺とお前はカップルのようなものだと、あやかしも認めてくれているということなんじゃないのか、花宮っ。
いや、あやかしが認めてくれたから、どうというわけでもないのだが……。
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