上 下
62 / 81
雨が降らなくなりました

ほんとうに降ってないっ

しおりを挟む

 萌子は掌を差し出し、空を見上げて言った。

「わあ、ほんとうに降ってない。
 便利ですね」

「便利だが、まずいだろう」
と言う総司に、

「まずいですかね~?
 たまたま濡れてない、と思ってくれるかもしれませんよ」
と言うと、

「今日くらいの雨なら、たまたまですむが。
 接待ゴルフの最中、いきなりどしゃ降りになったりするとな。

 傘もさしてないのに、俺は濡れてなくて、社長はびしょ濡れとか、非常に気まずいぞ」
と言ってくる。

「あ、それは気まずいですね~」

 はは……と笑ったあとで、萌子は言った。

「でもまあ、私、接待ゴルフ行かないんで。
 私に関しては大丈夫ですよ」

 ありがとう、ダイダラボッチ、と天に向かって、萌子は拝む。




 俺に気を使って大丈夫だと言ってくれているのだろうか。

 純粋に、雨に濡れなくてラッキーと思っているのだろうか。

 こいつの場合……、

 どっちもかな、と思いながら、総司は置き傘を取りに、萌子と一旦戻った。

 傘をさしていれば、濡れてなくとも、大丈夫だからだ。

 お互い傘を手に、裏の郵便局に向かって歩く。

「私、思うんですが。
 ダイダラボッチは、空の上からずっと、課長を見張ってるんじゃないですかね?」

「見張ってる?

 俺がダイダラボッチにとって、まずいなにかを目撃して、ダイダラボッチにしゃべらないよう見張られてるとかか」

「……いや、身体のほとんどが空の上にあるダイダラボッチのなにを目撃するというんですか。

 ダイダラボッチ殺人事件ですか」

「それだとダイダラボッチが殺されてるだろうが」

 傘が時折、リズミカルに雨を弾く音を聞きながら、そんなしょうもない会話をする。

「いや、言い方が悪かったです。
 課長に何事もないよう、見張ってるというか。

 見守ってるんじゃないですかね? ダイダラボッチ。

 きっと課長が好きなんですよ。

 だから、課長が雨に濡れないよう、守ってくれてるんですよ」

「ダイダラボッチに感謝されるようなことも、好かれるようなこともした覚えはないが」

「そういうんじゃないと思いますよ。
 私だって、別にウリになにもしてないですもん。

 きっと相性なんですよ」
と雨の中喜んで走っているウリを見ながら、萌子は笑う。

 なるほど……。

 ところで、花宮。

 その俺を見守ってくれているダイダラボッチは、今、お前の上にも雨を降らさなくなったわけだが……。

 花宮にもダイダラボッチがとり憑いたわけではなく。

 ずっと俺の側にいるせいで、影響を受けているだけなのではと思っていたのだが。

 お前の説がほんとうなら、ダイダラボッチは、俺の心が花宮に傾いているのに気がついて。

 俺といっしょに花宮のことも守ろうとしてくれているのでは――。

 ということは、

 俺とお前はカップルのようなものだと、あやかしも認めてくれているということなんじゃないのか、花宮っ。

 いや、あやかしが認めてくれたから、どうというわけでもないのだが……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 普通の甘いものではこの疲れは癒せないっ!  そんなことを考えながら、会社帰りの道を歩いていた壱花は、見たこともない駄菓子屋にたどり着く。  見るからに怪しい感じのその店は、あやかしと疲れたサラリーマンたちに愛されている駄菓子屋で、謎の狐面の男が経営していた。  駄菓子屋の店主をやる呪いにかかった社長、倫太郎とOL生活に疲れ果てた秘書、壱花のまったりあやかしライフ。 「駄菓子もあやかしも俺は嫌いだ」 「じゃあ、なんでこの店やってんですか、社長……」  「玖 安倍晴明の恩返し」完結しました。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

『遺産相続人』〜『猫たちの時間』7〜

segakiyui
キャラ文芸
俺は滝志郎。人に言わせれば『厄介事吸引器』。たまたま助けた爺さんは大富豪、遺産相続人として滝を指名する。出かけた滝を待っていたのは幽霊、音量、魑魅魍魎。舞うのは命、散るのはくれない、引き裂かれて行く人の絆。ったく人間てのは化け物よりタチが悪い。愛が絡めばなおのこと。おい、周一郎、早いとこ逃げ出そうぜ! 山村を舞台に展開する『猫たちの時間』シリーズ7。

処理中です...