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ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね

突然、田中侯爵砲が

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 どうしたことだ。
 湿気っていたはずなのに。

 突然乾いたかのように、田中侯爵砲が炸裂している……。

 萌子はいつものショッピングモールにあるインド料理の店で、生き生きと蘊蓄をたれている総司を眺めていた。

 まあ……私の前だとリラックスしてくれているということなのでしょうかね。

 兄たちといるよりも。

 そして、萌子は、
「アライグマはエサを洗っているわけではない」
とか。

「ポルトガルには、焼き魚と味噌汁がある」
とかいう、なんの役に立つのかよくわからない蘊蓄を嬉々として話す総司をちょっと微笑ましく眺めている自分に気がついた。

 なんだろう。
 課長の蘊蓄、前ほど嫌じゃないな。

 いや、蘊蓄が嫌じゃないというか。

 課長の楽しそうな顔を見ているのが嫌じゃないというか。

 そのとき、スマホに友だちからメッセージが入ってきた。

「来週の土日、ヒマ?」

 チラと総司を見る。

 ……まだ来週は誘われてないんだけど。

 ないんだけど。

「ちょっとわからないから、また連絡するー」

 思わず、萌子はそう打っていた。




 萌子たちが他の店に行かずに、このショッピングモール内の店にしたのには訳があった。

 例のキャンプグッズの店に行くためだ。

「毎週誘って悪いな」
と店内に設営してあるテントを見ながら総司が言ってくる。

「いえ、楽しいです」

 だから、来週も誘ってもらえると嬉しいんですけど。

 ……来週の予約、キャンプ場でしなかったですよね。

 まあ、課長も毎週行くわけじゃないだろうし。

 毎週誘ってくれるわけじゃないだろうし……と思っていると、総司が、
「キャンドル買ってやろうか」
と言ってきた。

「えっ?」

「今週も付き合ってくれたお礼に」
「いっ、いえ、いいですっ」

「此処より、雑貨の店とかにある奴の方がいいか」

「いえ、ほんとお気遣いなく」
と言いながら、

 そんなことより、来週……

 来週のキャンプはっ?
と司が聞いていたら、

「いや、口に出して言え」
と言ってきそうなことを萌子は思っていた。

 そして、二人がそんなやりとりをしている間、実はずっと萌子のカバンの中では、スマホがピコン、ピコンとメッセージの着信を告げていた。




 スマホの中では、萌子のさっきの友人がグループで会話していた。

 あれから結局、土曜の夜、呑みに行く話になっていたのだが、スマホを見ていない萌子は知らなかった。

 店内の音がうるさくて、着信音が聞こえていなかったからだ。

「萌子だけ返事がないよー」

「いつも、すぐ、行く行くって言うのにねー」

「萌子。
 萌子ーっ。

 土曜、夜七時集合だよー」

「そういや、土曜のドラマ見ながら、よく、あーだこーだ入れてくるのに、先週も今週もなんにも入れてこなかったね」

「そういえば、そうだよねー」

「これはもしかして、あれじゃない? ほら」

「彼氏ができた」

「ええーっ。
 萌子めーっ」

 なにも聞いてないよーっ、から、話はどんどん流れていき、

「萌子、初彼氏じゃない?」

「萌子、適当に付き合うとかなさそうだから、結婚まで行きそう」

「この間、理恵りえの結婚式で着たやつ、まだ入るかなー」

「季節はいつよ。
 私のドレス、ベルベットなんだけど」

「あんた、いい着物持ってんじゃん」

「美菜のとき、受付頼まれて、着たばっかりだよ」

「いや、それを言うなら、私のドレスだって……」
とみなでやんやと話していて。

 萌子が、
「すみません。
 可愛いキャンドルありがとうございました」
と言いながら、スマホの着信に気づいて開けたときには、すでに大変なことになっていた。

「えっ? 300?
 なにが一気に……」

 怒涛のコメントがそこには並んでいた。

「萌子、受付は誰?
 会社の人?」

「教会? 神社?」

「新婚旅行は何処?」

「二次会出られるの?」

 まで話が進んでいて、

「一体、なんの話っ!?」
と萌子はスマホに向かい、叫んでいた。



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