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ダイダラボッチはなんで課長に憑いてるんでしょうね

ハイジはやりたくてやってるわけじゃないだろう

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「ラクレットじゃないが、チーズあるぞ。
 溶けるチーズだが、どうせそんなに燃えてないだろうし」
と言いながら、いそいそと司は冷蔵庫からチーズをとってきた。

「すでにふかしてあるジャガイモにのせよう」
と北海道から送ってもらったとかいうジャガイモも持ってくる。

「ほぼ手抜きだけど、なんかいいね、お兄ちゃん」
と通りかかった散歩の人にもあげながら、萌子は言った。

「チーズとか火であぶるだけで、ハイジな気持ちで、テンション上がるよね」
と萌子は言ったが、

「ハイジはやりたくてやってるわけじゃないだろうがな。
 っていうか、お前、ハイジ見てないだろ、イメージか」
と司は言ってくる。

 確かに。
 兄は早朝、再放送をやっていたのを見たことがあるらしいが。

 自分のは、ただのイメージだ。

「でも、田舎はいつでも火がつけられていいよね」

「田舎か街か以前に、お前アパートだろうが」
と言う司は自宅から職場に通っていた。

 その話をすると、
「お兄さん、神主が仕事じゃないんですか」
と藤崎が驚く。

「めちゃくちゃさまになってますけどっ」

「お兄ちゃんは普段は市役所に勤めてるよ」
と萌子が言うと、

「こんな人が市役所にいるのかっ。
 意味もなく住所変更を繰り返す女子とかいないのかっ」
と藤崎は叫んでいた。

「いや、お兄ちゃん、窓口にいないから……」

 っていうか、そんな莫迦ばかな……。

「いずれは仕事やめて、神社だけでやりたいんだが。
 でも、そこまで大規模じゃないからな、此処」
と言う司に萌子は、

「お兄ちゃん、御朱印の練習しようよっ。
 そして、大評判にして、神社大きくするんだよっ。

 真凛まりんさんが言うみたいにっ」
と主張したが、

「そんなことで大きくなるのか、神社」
と総司が口を挟んでくる。

「まあ、ウリがみんなに見えたら、客が集まりそうだが」
と言う総司に、

「そうだ。
 課長、なにか御朱印の蘊蓄うんちくとかないんですか?」
と萌子は訊いてみた。

 だが、総司は何故かぎくりとした顔をする。

「蘊蓄?」
と司が訊き返してきた。

「課長、蘊蓄が得意なん……」
と言いかけた萌子の口に、総司が芋にのせようとしていた溶けかけたチーズを突っ込んだ。

 あつーっ、と萌子は叫ぶ。

「ほう、蘊蓄をたれるのか。
 たれてみろ」
と司に言われた総司だったが、

「いえいえ」
と恥ずかしそうに俯いている。

 何故か兄の前では湿気しけってしまうようだ、田中侯爵砲……、
と萌子が思っていると、後片付けをしながら、総司が言ってきた。

「お前はなんという話題を振るんだ」
「だって、課長、得意じゃないですか、蘊蓄」

「いや、お兄さんのような方の前だと緊張してしまうじゃないか」

 そう照れたように総司は言う。

 我々や部長の前では緊張しないのですね。
 どんだけ兄をリスペクト……と思っている間に、総司と藤崎は出てきた祖父母に帰りの挨拶をしていた。




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