異世界でやたら長い料理名の店を作ってみました

菱沼あゆ

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車ごと異世界転移していました

そこを料理名に入れろ……

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 アーレクは本日のおすすめの下にあるメニューを読み上げた。

「『可愛いうさぎが住み着いている牧場のおじさんが絞った牛の乳と、赤いキノコがたくさん生えているおうちのおじさんが育てている季節の野菜を使って作ったシチュー』

 ……キノコのおじさん、また出てきてるじゃないか。
 おじさん、野菜も育ててるのか。

 というか、このシチュー。
 毒キノコっぽい、赤いキノコが入ってそうに感じるんだが……。

 そもそも季節の野菜ってなんだ」

 肝心のことがのってない、とアーレクは眉をひそめる。

「それにしても、名前が長すぎて注文しにくいな。
 もう少し短くしたらどうだ」

「でも、それがうちの売りなんですけど」
「いや、味を売りにしろ」

「そうですか。
 では、ざっくり縮めて――、

 『可愛いおじさんが作ったシチュー』で」

「……おじさんがシチューを作ってしまっているじゃないか」

 お前は縮める場所を間違っている、とアーレクは言った。

「うーん。
 でもまあ、『森の妖精さんが作った十二月のケーキ』も妖精さんが作ってるわけじゃないと思いますけどね」
と言うクリスティアについ、

「森の妖精さんやお前は可愛いが。
 おじさんだと可愛くないだろうっ」
と言ってしまった。

 はっ、本人に向かって、可愛いとか。
 私としたことがっ。

 まるで、この娘に好意を抱いているみたいではないかっ、とアーレクは焦ったが、クリスティアはまったく気にしている風にもなかった。

 ……いや、ちょっとは気にしてくれ、と思うアーレクに、クリスティアは違うメニューを勧めてくる。

「では、まだここには書いていない新メニューなのですが。
『森で遊んでいた可愛い子ヤギの……』」

「子ヤギ率高いな。
 可愛いからか」

 森で遊んでいた可愛い子ヤギの近くに生えていた野菜の炒め物とかかな、とアーレクは思っていたのだが――。

「『森で遊んでいた可愛い子ヤギのスープ』です」

 続きがあるのかと思ったが、なかった。

「……子ヤギ、ついに料理に入ってしまったではないか」

「可愛く元気に飛び回っていた子ヤギに想いを馳せながらお召し上がりください」

 食べられるかーっ、と立ち上がり叫ぶアーレクに、
「では、あちらのお客さまが食べている新メニュー、『湖畔に住むエルフの香ばしい丸焼き』はいかかですか?」
と店内のテーブルを手で示しながら、クリスティアは言う。

 そこに座る笑顔の素敵なおじさんの皿の上には、いい色に焼けた肉がのっていた。

「エルフ、香ばしく丸焼かれてんのか……」

「いえ、メニュー短い方がいいと、騎士様がおっしゃるので縮めてみただけなんですけど」

「最初の名前はなんだ?」

「『湖畔に住むエルフがたまに物々交換してくれる絶品採りたてセロリを下に敷いて焼き上げた香ばしい鶏の丸焼き』です」

「……お前は常に縮めるところを間違っている。
 だがまあ、美味そうだな」

「では、それで。
 あ、そのエルフの丸焼き。

 よくここにいらっしゃる東国の商人の方が分けてくださる質の良い胡椒を使っているので。

 ピリリと胡椒のアクセントが効いてて美味しいですよ」
と微笑み、行こうとするクリスティアに、

「いや、そこを料理名に入れろっ」
と言ってみたが、聞いてはいなかった。

 その愛らしい後ろ姿を見ながら、テオが呟く。

「そこで更に、『湖畔に住むエルフがたまに物々交換してくれる絶品採りたてセロリを下に敷いて、赤いキノコがたくさん生えているおうちのおじさんが作ってくれた石窯で焼き上げた鶏の丸焼き』
まで言わないのは、ちょっとした遠慮なんですかね?」

 いや、どの辺がだ……。

 前半だけで、すでに容赦なく長いが。

 しかし、名前が長いのはまあいいとして。

 その名前から、ちっとも美味しさが伝わってこないのはどうなんだ?
と思いながら、アーレクはまだ突っ立ったまま、渋い顔で木のうろの方を眺めていた。

 客で賑わっているうろの中からクリスティアが出て来た。
 外に置いてある石窯に大きな丸鶏ののった鉄の鍋を運んでいる。

 クリスティアは見ているこちらに気づくと、微笑み、手を振ってきた。

「じっくり焼くので時間かかります。
 少々お待ちくださいね~」

 アーレクは黙って頷き、おとなしく座った。


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