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それ、事件じゃないんですかっ!?
そうか、わかったぞ!
しおりを挟む「先生っ」
競技が終わり、夏巳が駆けつけたとき、ちょうど心配して集まった生徒たちを桂が戻らせているところだった。
「先生、大丈夫ですか?」
「ああ、そこの階段から落ちただけだから」
振り返り、桂は言う。
体育館横の非常階段を下りていて落ちたのだと言う。
たいした怪我はしていなさそうではあったが……。
「先生、突き飛ばされたんじゃないんですか?」
そう夏巳は訊いたが、騒ぎにしたくないからか、桂は、
「いや、たまたま当たっただけだろう」
と言う。
「こんなところで、たまたま当たったら。
当たった当人は、此処に残ってて、すみません、というはずですよ」
「驚いて逃げたのかもしれないじゃないか」
「……先生。
本当はさっきの件を疑ってて、わざとこんな寂しいところで一人になってみたんじゃないですか?
犯人を誘き出すために」
そう夏巳は訊いてみた。
この辺りは開放してある体育館のトイレからも離れているので、人通りが少ないのだ。
「いや、単に暑かったから、涼みに来ただけなんだ。
少し高いところに上がった方が風も吹いてるし、この辺りはちょっと日陰になってるから」
……何処までも無能、と夏巳は思ったが、言わなかった。
「でもさ」
と側に残っていた祥華が小首を傾げて言い出す。
「なんで、先生が突き落とされるんだろうね?
夏巳がやっかまれて突き飛ばされるんならわかるけど」
夏巳が桂と居ることをうらやんだ誰かがやるかもしれないと言うのだ。
っていうか、貴女の背後に居る佐川先輩にやられそうなんだど……と思い見たが。
佐川は桂を突き落とした犯人を突き止めるため、近くに居る男子を次々締め上げていた。
「お前かーっ!」
「なにがですかーっ!」
とひょろっとした男がやられていたが。
佐川先輩……。
その人、生徒じゃなくて、卒業生。
確か前の生徒会の人だが、佐川は先輩だろうが、構わず、締め上げている。
まあ、この人は人を突き落としたりはしないか。
せいぜい無理やりバレー部に入れてシゴく程度か……と夏巳が思ったとき、
「そうか、わかったぞ!」
と桂が手を叩いた。
だが、夏巳は、
いや……、なにもわかるな、と思っていた。
この男、わかった! と言ったあとに、まともなことを言ったためしがないからだ。
「お前を好きな男が俺を突き飛ばしたんだ!
俺がお前の側をチョロチョロしてるからっ」
「残念ながら、そんな人は居そうにありませ……」
「小笠原さんっ?」
と何故か、桂は近くに来ていた小笠原の名を呼び、振り返る。
ひっ、と小笠原が絵に描いたように飛び上がった。
何故、小笠原さん?
と思う夏巳の前で、小笠原は、
「なっ、夏巳さんっ。
僕じゃないですっ。
信じてくださいっ!」
と激しく両手を振りながら、夏巳に訴えて来たが。
小笠原は、あ、という顔をすると、
「そうかっ、わかったっ」
と手を打ち、叫び出した。
私、貴方の、わかった、もちょっと恐ろしいんですが……と思う夏巳の前で、小笠原は、
「そうですよっ。
犯人はきっと、娘を桂先生に取られると思った品川さんですっ!」
と寛太を指差す。
「お前っ!
自分が助かろうと思って、俺を売る気かーっ!」
叫ぶ二人の横で、桂がなにをわかったのか、また手を叩き、
「そうか。
わかったぞ」
と言っていて、その後ろでは、佐川が通りかかった先生を締め上げていた。
「お前かーっ!」
「なにがだっ、佐川ーっ!」
うーむ。
阿鼻叫喚とはこのことか。
しかし、一体、誰が先生を……?
とこの中で、唯一、夏巳だけがまともに推理しようとしていた。
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