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それ、事件じゃないんですかっ!?
神社も閉店するんですね
しおりを挟む地方を舞台にしたサスペンスの場合。
それは無理だろうと思う移動ペースのものも結構あるが、萩津和野に関しては、本当に近い。
連続して殺人事件も起こせそうだ。
だが……。
「でも、五時過ぎに津和野に行っても、みんな寝てんのかなって思うくらい人気ないですよ」
「お前……、津和野の人に殴られるぞ」
「いや、鄙びていい雰囲気になるって意味ですよ。
でも、観光客とか居なくなるので、事件はちょっと起きそうにないですかね」
神社やその他の施設なども受付が五時までのところが多いせいか、閑散としているし。
山中のせいか、日が暮れるのも早い気がする。
「私、うっかり五時に過ぎに行ってしまいまして。
人気のない神社を散策し、何処も開いてなかったので、掘割の太った鯉が泳ぐのを見て帰りました。
でも、本当にいいところですよ」
「……今のお前の発言では、全然いいところに聞こえないんだが」
と桂は言うが。
「いやいや。
うら寂しい感じがして、情緒があるんですよ。
津和野は銘菓もいっぱいありますしね。
お店の中でも食べられたりして、すごくいい感じなんですよ」
ほんとにいいところなんですよ、と夏巳は言った。
「SLにも遭遇できたりしますしね。
これ、私が遭遇したときに撮った写真です」
とスマホを見せようとすると、桂が側に来て、覗き込もうとする。
来ないでくださいっ。
側に来ないでくださいっ。
またあの、なんだかわからないいい匂いがしてるしっ。
このスマホの写真が原因で貴方が側に来るというのなら、今すぐ床に叩きつけて、画面を割って見られないようにして、逃げ出したいですっ、
と恥ずかしさのあまり思っていたが。
顔に動揺を出さないようにするのが精一杯で、夏巳は固まったまま、
「煙しか写ってないじゃないか」
という桂の非難の声をそのまま間近に浴びた。
「だ、だって、まさか来ると思ってなかったんで、スマホ構えて、シャッター切ったときには通り過ぎてたんですよ~」
という声をなんとか絞り出し、急いでスマホをしまう。
「SL本体部分は想像力で補ってください」
と夏巳は言った。
しかし、どうしたことか。
ちょっと距離感のおかしいこの男は、まだ夏巳のすぐ側に居た。
いや……もうスマホしまったんで、少し離れてください、と思う夏巳を見つめ、桂は言ってくる。
「まあ、今度一度、付き合ってくれよ。
な、夏巳」
だーかーらー、そういうデートみたいな軽い感じで誘わないでくださいよー、
と夏巳は赤くなるまいと思ったのに、赤くなる。
駄目だ……。
この夕暮れの光に茶色く透ける瞳で見つめられると、いやとは言えなくなってしまうではないですか。
そんなことを思いながら、夏巳はジリジリ桂から逃げようとしたのだが。
桂はそこで、あっさり夏巳から離れ、窓際に歩いていってしまう。
窓の外、夏巳の学校の方を見ながら、桂は言ってきた。
「そうだ。
じゃあ、土曜はお前の学校の体育祭でも見に行こうかな」
「……やめてください。
大パニックになりそうなので」
そして、大パニックになった――。
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