73 / 75
白地図と最後の事件
神の島
しおりを挟む「確かに世界一安全かはわからないよな、刑務所。
お前の組織が国の機関の一部だったのなら」
かき氷屋が佐古に引きずられ、二軒目に行くのを見ながらマグマが言う。
みんな口は挟まなかったが、かき氷屋との話を聞いていたようだった。
「かき氷屋さん、自分が刺した男が林の方から来たので、そちらに行ってみたそうです。
それで、プチプチに包まれた死体を見つけたらしいです。
あの『ツギ ハ オマエダ』を書いて、まず、投げ捨て。
次に、死体を投げ捨てた。
途中で木に引っかかって、なかなか落ちなかったみたいなんですけどね、どっちも」
男は署長を殺すのに。
なにかの弾みで島の人間に自分の身元がバレたらまずいと思い、身分証明書の類いは持ってきていなかったらしい。
スマホも普段使用しているものとは違ったそうだ。
だがそれも、かき氷屋が自分のスマホのフリをして、やり過ごし、処分してしまったようだった。
「お前がイチゴシロップを食べたあと、何度も鏡を確認していたのは、舌にいつまでイチゴの色がついてるか確かめるためか?」
そう倖田が茉守に訊く。
「そうです。
言ったじゃないですか。
死んでないから、検死はしていない。
だから、被害者の舌にイチゴの色がついてるかどうかも、誰も確認してないんですよね。
かき氷屋さんは私たちの前には誰もかき氷は食べていないと言いました。
でも、ほんとうはあの被害者の人が食べていたのかもしれません。
あるいは、食べる前に刺されたのかもしれませんが。
ともかく、イチゴシロップのかき氷は作った。
だから、カウンターにイチゴシロップがわずかに残っていて。
慌てて、メニューを書くときに使ったりするペンで『ツギ ハ オマエダ』と書いたとき、シロップのピンクが紙についてしまった。
お医者さんが被害者の方の治療をしたとき、もしかしたら、イチゴの色が舌についていたのを見ているかもなと思ったんですが。
どのくらいの時間、舌に残るものなのか確かめてから訊こうかと思って、自分でやってみたんです。
まあ、ピンクなので、メロンとかブルーハワイとかと比べて、ちょっとわかりにくいかなとも思ったんですが」
なるほどな、とマグマは言う。
「それにしても、捜査を撹乱しようとして書いたんだろう『ツギ ハ オマエダ』が別の犯罪に利用されて、かき氷屋はハラハラしただろうな。
――ところで、お前、家に帰るのか」
「はあ、家ですからね」
と茉守は答える。
なにもなくとも、今はあそこが我が家だ。
なにもなくとも。
誰も居なくとも――。
「誰も殺さないよう、神の島に住んでみるというのはどうだ?」
そうマグマが訊いてくる。
「……いや~、でも、島に住んだところで、みんな殺しちゃってますしね~」
あの役所の人もかき氷屋の人も。
いや、幸いというべきか。
刺された男は助かりそうだということだったが――。
刺したかき氷屋はもちろん、罪に問われるだろうが。
刺された男の罪は、きっと佐古たちが暴いてくれるに違いない。
「まあ、気が向いたら、うちに来い。
部屋なら空いてる」
とマグマが言うと、倖田も言う。
「うちの実家に住んでもいいぞ。
音楽性と主義主張の違いにより、今は誰も住んでないから」
「……ありがとうございます」
と茉守は頭を下げた。
もしかしたら、組織のことが原因で、いつか追われる日が来るのでは、と心配してくれているのかもしれない。
感謝を込めて、微笑みたいところだったが。
どうやったら微笑めるのか、今の自分には、まだわからなかった――。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦憶の中の殺意
ブラックウォーター
ミステリー
かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した
そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。
倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。
二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。
その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。
ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~
菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。
俺は静かに本を読みたいんだっ。
此処は職場かっ?
なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」
監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。
5話目です。
ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる