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白地図と最後の事件

神の島

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「確かに世界一安全かはわからないよな、刑務所。
 お前の組織が国の機関の一部だったのなら」

 かき氷屋が佐古に引きずられ、二軒目に行くのを見ながらマグマが言う。

 みんな口は挟まなかったが、かき氷屋との話を聞いていたようだった。

「かき氷屋さん、自分が刺した男が林の方から来たので、そちらに行ってみたそうです。

 それで、プチプチに包まれた死体を見つけたらしいです。

 あの『ツギ ハ オマエダ』を書いて、まず、投げ捨て。

 次に、死体を投げ捨てた。

 途中で木に引っかかって、なかなか落ちなかったみたいなんですけどね、どっちも」

 男は署長を殺すのに。
 なにかの弾みで島の人間に自分の身元がバレたらまずいと思い、身分証明書の類いは持ってきていなかったらしい。

 スマホも普段使用しているものとは違ったそうだ。

 だがそれも、かき氷屋が自分のスマホのフリをして、やり過ごし、処分してしまったようだった。
 
「お前がイチゴシロップを食べたあと、何度も鏡を確認していたのは、舌にいつまでイチゴの色がついてるか確かめるためか?」

 そう倖田が茉守に訊く。

「そうです。
 言ったじゃないですか。

 死んでないから、検死はしていない。

 だから、被害者の舌にイチゴの色がついてるかどうかも、誰も確認してないんですよね。

 かき氷屋さんは私たちの前には誰もかき氷は食べていないと言いました。

 でも、ほんとうはあの被害者の人が食べていたのかもしれません。

 あるいは、食べる前に刺されたのかもしれませんが。

 ともかく、イチゴシロップのかき氷は作った。

 だから、カウンターにイチゴシロップがわずかに残っていて。

 慌てて、メニューを書くときに使ったりするペンで『ツギ ハ オマエダ』と書いたとき、シロップのピンクが紙についてしまった。

 お医者さんが被害者の方の治療をしたとき、もしかしたら、イチゴの色が舌についていたのを見ているかもなと思ったんですが。

 どのくらいの時間、舌に残るものなのか確かめてから訊こうかと思って、自分でやってみたんです。

 まあ、ピンクなので、メロンとかブルーハワイとかと比べて、ちょっとわかりにくいかなとも思ったんですが」

 なるほどな、とマグマは言う。

「それにしても、捜査を撹乱しようとして書いたんだろう『ツギ ハ オマエダ』が別の犯罪に利用されて、かき氷屋はハラハラしただろうな。

 ――ところで、お前、家に帰るのか」

「はあ、家ですからね」
と茉守は答える。

 なにもなくとも、今はあそこが我が家だ。

 なにもなくとも。

 誰も居なくとも――。

「誰も殺さないよう、神の島に住んでみるというのはどうだ?」

 そうマグマが訊いてくる。

「……いや~、でも、島に住んだところで、みんな殺しちゃってますしね~」

 あの役所の人もかき氷屋の人も。

 いや、幸いというべきか。

 刺された男は助かりそうだということだったが――。

 刺したかき氷屋はもちろん、罪に問われるだろうが。

 刺された男の罪は、きっと佐古たちが暴いてくれるに違いない。

「まあ、気が向いたら、うちに来い。
 部屋なら空いてる」
とマグマが言うと、倖田も言う。

「うちの実家に住んでもいいぞ。
 音楽性と主義主張の違いにより、今は誰も住んでないから」

「……ありがとうございます」
と茉守は頭を下げた。

 もしかしたら、組織のことが原因で、いつか追われる日が来るのでは、と心配してくれているのかもしれない。

 感謝を込めて、微笑みたいところだったが。

 どうやったら微笑めるのか、今の自分には、まだわからなかった――。


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