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白地図と最後の事件
島を去る日
しおりを挟む「ありがとうございました。
ご馳走様でした」
と茉守は売店に瓶を戻しに行く。
「いえいえ。
また遊びに来てくださいよ」
と言うかき氷屋に、
「そうだ。
倖田さんが事件を解決したお礼に、今度、みんなを焼き肉に連れてってくれるそうですよ。
かき氷屋さんもぜひご一緒にと言ってました」
と教えると、
いやあ、僕なんてなにもしてませんから、と苦笑いする。
茉守はかき氷屋が新しいレモネードを足しているピカピカの冷蔵ショーケースを見て言った。
「それ、最近買ったんですか?」
「そうなんですよ。
前から調子悪かったんで。
ついにオーナーが買ってくれたんです」
そうですか、と言ったあとで、
「行きましょうね、焼き肉」
茉守はそう繰り返す。
「……わかりました」
とかき氷屋は頷いてくれた。
「ほんとうに帰るのか」
寺の母屋でマグマがそう訊いてきた。
「はい」
「まだ事件解決してないぞ」
「もう解決してますよ」
と茉守は言う。
「此処での暮らしは楽しかったですが、バイトがあるので」
「……ほんとにお前、バイト中心に生きてるな」
大学生か、と言われる。
いや、大学には行ったことはない。
その手の知識は詰め込まれてはいるが。
「これとこれ、持って帰れ。
島のじいさんばあさんがお前にと持ってきた」
とさっき渡された島の銘菓やらっきょうなどを詰め込んだカゴを茉守は手にする。
マグマの部屋から発掘された買い物カゴをもらったのだ。
ほんとうにあの部屋、なんでも出てくるな、と思う茉守にマグマが言う。
「おいっ。
俺がやったクマッ。
頭からカゴに突っ込まれてるぞっ」
茉守はクマの足をつかんで引き出すと、そのまま頭を撫でた。
「別に逆さになってても可愛いです」
と言いながら。
「……お前は生命の維持に必要なものしか部屋に置いていないと言っていたが。
そのクマも100均のクマも、たぶん、お前が生きてくのに必要なものだろうよ」
「そうかもしれませんね。
あの、ニートさんは?」
「あいつは別れが苦手なんで、いつもの場所に居る」
そう言われ、茉守は外に出てみた。
ニートはいつものようにあの枯山水で砂紋を描いていた。
瑞樹は彼を恨みながらも。
事件に巻き込まれたことで、彼の一生が台無しになってしまったことはわかっていた。
だからこそ、あの伝言を自分に託したのだろう。
いつか、申し訳ないと思うほどに、彼にも幸せになって欲しいと――。
ニートが手を止め、こちらを見た気がした。
ふたたび逆さにクマが突っ込まれたカゴを手に、茉守はそちらに向かい、頭を下げた。
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