神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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白地図と最後の事件

口の端が少し上がってる

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「すみません。
 今日も泊めていただいちゃって」

 茉守は帰りの車の中でマグマたちに言う。

「そいつらのところが面倒臭いなら、うちの実家に泊まってもいいぞ。
 俺は居ないから」
と送ってくれている倖田が言った。

「明日のバイト、何時からだ?」
とマグマが訊いてくる。

「二時からです」

 暗い海の上の橋を渡りながら、茉守は、
「十戒みたいですよね~」
と呑気なことを言う。

「海は割れてないけど、橋によって本来渡れない海の上をこうして軽々と渡れてるわけですから」

「モーセの十戒か。
 映画で見たが。

 あれって、トンボロ現象じゃないのか。
 干潮のときに道が現れる」

 そんなロマンのないことをマグマが言ったとき、車があの女性が死んでいた地点を通った。

 軽く目を伏せる。

 男の人を刺すつもりで、ナイフを持っていたというが。
 ほんとうにそうなのだろうかな?

 そんな疑問を茉守は抱いていた。

 死んでも、自分のせいで殺されそうなかき氷屋さんのことを心配していた人がそんなことするかな?

 いや……それでもやってしまうのが、男女の愛というものなのかもしれないが。

 人としての情すら、まだ、いまいちよくわからない自分には、まったくもって理解できないのだが。
 


 一度、交番に行き、心配して待っていた警官とかき氷屋に報告すると、二人とも、ホッとしたようだった。

 帰ろうとすると、かき氷屋が、
「茉守さん、明日、何時からバイトですか?」
とマグマと同じことを訊いてくる。

 明日には島を去ることはもう告げてあった。

「二時です」

「じゃあ、朝ちょっといらっしゃいませんか?
 皆さんもお暇なら」

 いろいろお世話になったので、かき氷、ご馳走しますよ、とかき氷屋は笑った。


 ご馳走というか。

 かき氷機の使い方教室になっている、と早朝、山頂の売店を訪れていたニートは思う。

 マグマがかき氷屋にやり方を教えろと言い、習っていたが、元来不器用な男だし。

 アサシン茉守もこういうことはいまいちで。

 ニートがこのメンツの中では、そこそこできる方だった。

 遅れてやってきた倖田が、
「俺にもやらせろ」
と言ってやったら、一番できたのだが。

 倖田の秘書の若い男がさらに上手く氷を削れた。

「おのれ、この俺より上手くやるとは」
と倖田にねたまれた秘書は、

「よし、お前、今日から、この売店勤務な」
と突然の異動を告げられる。

 いやもう勘弁してくださいよ~と秘書が倖田に泣きつき、みんな笑った。

 茉守は相変わらず笑わなかったが、口の端が前より少し上がっているようにも見えた。

「おい、なにやってんだ」
と瓶が落ちていたという山道の実況見分に来ていた佐古も参加する。

 が、性格通り、かき氷は荒い仕上がりだった。

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