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白地図と最後の事件

写真に写っていたモノ

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 それにしても、黒髪の綺麗な人、か。

 あの髪の長さの方が自分などには印象的だが。

 今の若い人は黒髪の方が珍しいんだろうな。

 自分もまだ若者と言える年ではあるが、老人の多い島で育った佐古は不思議に思う。

「ちょっと前の方も見せてもらっていいですか?」

 そう訊いて見せてもらったが、あの見切れた霊の写真より前には、なにも怪しいものは写ってはいなかった。

 だが、ん? と写真を戻していて、佐古は気づく。

 霊が見切れている写真の前に、倖田と彼女らを撮った写真が一枚あるのだが、人物が妙に左に寄っていた。

 なにか不自然なものを感じる。

「この写真を撮ったのは?」
と佐古は前の写真の方を見せ、問うてみた。

「えーと……菊池さんか、かき氷屋さんだと思います」

「そうですか。
 ありがとうございます」

 もう一度、霊の写真を見てから、彼女らに返した。

「すみません。
 あの、警察のものなんですが」

 そこで佐古はようやく、そう名乗った。

「実は昨日、山頂で事件がありまして。
 その写真とひとつ前の写真を提出していただけないでしょうか?」

「え、はい、わかりました」

 警察と言わずに写真をくださいと言ったら、ヤバイ奴だと思われそうだったので名乗ったのだ。

 写真を送ってもらい、帆村と二人、礼を言って車に戻ろうとしたとき、彼女らの話し声が聞こえてきた。

「今の人たち、なんか良くない?
 しかも、二人ともお巡りさんだって。

 公務員って、安定してていいよね」

「あんた、どっち好み?」

「私、可愛い人の方」

 帆村も聞き耳を立てているのか、ドアをゆっくり開け、なかなか車に乗らない。

「私は背の高い人の方。
 なんか素敵じゃない?」
と言われて佐古は喜んだが、別の女が言う。

「そうねえ。
 あっちの人の方が男らしい感じがするけど。

 でもなんか、暴力的な感じしない?
 目つきとか。

 あれは頭つかんで、腹に一発入れてくるタイプよ」

 いや、どんなタイプだ……と思いながら、車に乗り込む。

 運転席で帆村が笑っていた。


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