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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
実は私もよく知りません
しおりを挟む「物心ついたときにはもう、私は、その組織の中で暮らしていた気がします。
両親の記憶など、もちろん、ありません。
人工的に作られた存在なのかもしれませんが、それも知りません。
私は組織の暗殺者として、英才教育を受けて育てられたのですが」
ニートが、暗殺者の英才教育ってなんだ!?
という顔をしていた。
「折りからの不況の波を受けてか、組織が解散することになりまして」
今度は、
不況の波で解散する組織ってなんだっ!?
という顔をニートがする。
「予算がなくなったようで」
「予算!?
悪の組織って、予算で動いてるのか」
とマグマが訊き返してくる。
「別に悪の組織じゃないと思いますが。
そうだったとしても、赤字になれば、切り詰められるところから、切り詰めますよね。
我々は切り捨てられたんです。
いきなり、今日で此処で閉鎖するから、何処へなりとも行っていいと言われました。
此処でのことは、決して口外しないとサインさせられて」
「なんでそんなサインが効力あると思うんだよ……」
とマグマが呆れたように呟く。
「そういう方々なんです。
仕事においては、結構四角四面な感じで」
「だからって普通、そこまで時間をかけて育てた暗殺者を手放すか?
それこそ、無駄金になるだろ」
「あんまりそういうこと、考えない方々だったみたいなんですよね」
「お前の他にもお前みたいな奴居たのか」
「結構、居ましたよ。
みんなバラバラな時期に何処かに行かされたようです。
連絡を取り合えないように」
「世界中に暗殺者が解き放たれたってことか?」
「いえいえ。
暗殺者なのは、私だけかもしれません。
それぞれがそれぞれの分野のエリートとなり。
さまざまな企業や国の機関に潜り込む、という計画だったみたいですよ。
……頓挫しましたけど」
「半端に能力だけ高く。
コミュニケーション能力の欠如した連中を大量に作り出しただけな感じがするが。
お前みたいに」
とマグマに言われる。
「暗殺者に関してはあまりノウハウがなかったみたいで。
日々、筋トレやエクササイズ。
あとは、いろんなスポーツをやってましたね」
「……それ、アスリート育ててんのと変わらなくないか?
お前、将来は、ヨガのインストラクターとかになったらどうだ?
やたら動きにキレのある」
ヨガにキレ、いるだろうかな。
まったりゆるっと動いているイメージなのだが……。
「とりあえず、カルチャーセンターとかで働いたらどうだ?」
とマグマが提案してくる。
暗殺者になる予定がカルチャーセンターの講師。
すごい方向転換だな、と自分でも思う。
「まあ、私のこれまでと今後のことはさておき」
「……さておくんだ」
展望台付近で待っている観光客にかき氷を運ぶところらしいかき氷屋が前を通り、そう呟く。
「とりあえず、目の前の事件を解決しましょう。
あの最後の女の人が死んだ謎が解けてません」
と茉守は立ち上がる。
「いや、最後の事件以外解けてんのかよっ」
とマグマが叫んだ。
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