53 / 75
海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
実は私もよく知りません
しおりを挟む「物心ついたときにはもう、私は、その組織の中で暮らしていた気がします。
両親の記憶など、もちろん、ありません。
人工的に作られた存在なのかもしれませんが、それも知りません。
私は組織の暗殺者として、英才教育を受けて育てられたのですが」
ニートが、暗殺者の英才教育ってなんだ!?
という顔をしていた。
「折りからの不況の波を受けてか、組織が解散することになりまして」
今度は、
不況の波で解散する組織ってなんだっ!?
という顔をニートがする。
「予算がなくなったようで」
「予算!?
悪の組織って、予算で動いてるのか」
とマグマが訊き返してくる。
「別に悪の組織じゃないと思いますが。
そうだったとしても、赤字になれば、切り詰められるところから、切り詰めますよね。
我々は切り捨てられたんです。
いきなり、今日で此処で閉鎖するから、何処へなりとも行っていいと言われました。
此処でのことは、決して口外しないとサインさせられて」
「なんでそんなサインが効力あると思うんだよ……」
とマグマが呆れたように呟く。
「そういう方々なんです。
仕事においては、結構四角四面な感じで」
「だからって普通、そこまで時間をかけて育てた暗殺者を手放すか?
それこそ、無駄金になるだろ」
「あんまりそういうこと、考えない方々だったみたいなんですよね」
「お前の他にもお前みたいな奴居たのか」
「結構、居ましたよ。
みんなバラバラな時期に何処かに行かされたようです。
連絡を取り合えないように」
「世界中に暗殺者が解き放たれたってことか?」
「いえいえ。
暗殺者なのは、私だけかもしれません。
それぞれがそれぞれの分野のエリートとなり。
さまざまな企業や国の機関に潜り込む、という計画だったみたいですよ。
……頓挫しましたけど」
「半端に能力だけ高く。
コミュニケーション能力の欠如した連中を大量に作り出しただけな感じがするが。
お前みたいに」
とマグマに言われる。
「暗殺者に関してはあまりノウハウがなかったみたいで。
日々、筋トレやエクササイズ。
あとは、いろんなスポーツをやってましたね」
「……それ、アスリート育ててんのと変わらなくないか?
お前、将来は、ヨガのインストラクターとかになったらどうだ?
やたら動きにキレのある」
ヨガにキレ、いるだろうかな。
まったりゆるっと動いているイメージなのだが……。
「とりあえず、カルチャーセンターとかで働いたらどうだ?」
とマグマが提案してくる。
暗殺者になる予定がカルチャーセンターの講師。
すごい方向転換だな、と自分でも思う。
「まあ、私のこれまでと今後のことはさておき」
「……さておくんだ」
展望台付近で待っている観光客にかき氷を運ぶところらしいかき氷屋が前を通り、そう呟く。
「とりあえず、目の前の事件を解決しましょう。
あの最後の女の人が死んだ謎が解けてません」
と茉守は立ち上がる。
「いや、最後の事件以外解けてんのかよっ」
とマグマが叫んだ。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。
【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」
百門一新
ミステリー
雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。
彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!?
日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。
『蒼緋蔵家の番犬』
彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
消された過去と消えた宝石
志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。
刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。
後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。
宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。
しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。
しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。
最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。
消えた宝石はどこに?
手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。
他サイトにも掲載しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACの作品を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる