神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

神の島にあなたがたは物騒では……

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「しかし、ニートさんといい、マグマさんといい。

 次々襲われかけるなんて、神の島にあなたがたは物騒では……」

 そう言いかけた茉守に、佐古が、
「いや、物騒なのはお前だろ」
と言う。

「なに素手で止めてんだ、ナイフ」

 爆笑しながらも、そういうところはちゃんと見ていたようだった。

「いや、握ったのは柄ですから」

「普通の人間は、飛んで来たナイフの柄の位置見極めてつかまないからな」
と佐古は笑わない目で言う。

「旅行客、お前が何者だか知らないが。
 この島に災厄を持ち込むことだけは許さない」

 閉鎖的な島での暮らしに嫌気がさして出て行ったというわりには、佐古はやはり、生まれ育ったこの島を愛しているようだった。

 大事な仲間が此処に居るからかもしれない。

 そういう気持ち、私にはまだよくわからないけど、と思いながら、茉守は言った。

「そういうのって、素敵ですね。

 でも、大丈夫ですよ。
 私が災厄をもたらしに来たのは、ニートさんだけですから」

「そうか。
 じゃあ、いい」

 いや、よくないでしょうよ、という目で帆村が見ていた。


 佐古は捕まえた男を連れ、山から下りようとしたが、男に文句を言われる。

「山歩いて下りんのかよっ。
 俺はもう勘弁だよっ」

「島のいい風感じながら下りろっ」
と脅したが、

「犯人に人権はないのかっ」
とわめくので、

「あるわけないだろう」
と言ったのだが。

 まあ、途中、逃走されても厄介だ。

 ものすごく嫌だったが、佐古はロープウェイで下りることにした。

「よし、帆村は歩け」

「いや、なんでですかっ」

「ロープウェイの乗客数を増やしたくないからだ」

「じゃあ、佐古さんも乗らなくていいじゃないですかっ。

 この人だけロープウェイに乗せて、我々が猛ダッシュで坂を下り、下でこの人と合流すればいいでしょうっ?」

「いや、お前、どんだけ走る気だ」

 お前もプチプチに包んで斜面を転がしてやろうか……と佐古は脅す。

「なんで容疑者が、王様気分でロープウェイから渓谷を観覧してる間に、俺たちが必死こいて駆け下りなきゃならんのだっ」

「公僕だから?」
と言う男を小突きかけてやめ、

「おっとっ。
 警察官に暴行されたとか言われるとこだった。

 電話帳で殴るとか。
 なんか柔らかいものにお前を包んでから、殴るとかしないとな」

 帆村が、
「でも、今どきの電話帳、すごく薄いですよ」
と妙なところを問題視してくるので、

「二、三冊重ねるか、ものすごい振りをつけて、殴ったらいいんじゃないか?」
と言ったとき、何故か男が、

「それこそ、プチプチに包んで殴ったらいいんじゃねえのか?」
と自分を殴る方法を提案してくる。

「あれっ?
 もしかして、殴った痕跡を残さないために、署長をプチプチに包んだんですかね?」
と言う帆村に、

「毒殺だぞ」
と佐古は言ったが、

「なんかやりたりない感じがしたんじゃないですかね」
と帆村は言う。

「なんかお前、可愛い顔して怖ええよ」

 佐古はそう言ったあとで、

「まあ、どうせ、俺たちの仕事は推理じゃないしな。
 俺たちは足で稼いで、犯人捕まえて、吐かせるのが仕事だ」
と言い切る。

「じゃあ、推理は誰がするんですか?」

「誰もしねえよ。
 見たもの聞いたものがすべてだ」

「佐古さんって、潔いですよね」

「でも、余計な推理しそうな連中が居るけどな」
と佐古はロープウェイの方に向かって歩きながら振り返る。

 あの三人はかき氷屋と呑気に話しているようだった。


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