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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
お前の未来予想図が怖い
しおりを挟む「すみません、佐古さん。
一日では無理でした」
いきなり茉守に謝られ、佐古が、
「なんの話だ?」
と言う。
マグマが親指で茉守を示し、
「いや、こいつ、今日一日で、この一連の事件を解決すると倖田に約束したんだ」
と教えた。
「明日からバイトがあるので」
「いや、舐めてんのか、お前っ」
「でも、まだ被害者の方々の身元がわかりそうにないので、ちょっと一日では無理かと」
「しかも、情報集められない警察への批判かよっ」
と佐古が叫んだ横で、ニートが、
「いや、舐められてんのは俺だ。
こいつ、俺を殺しに来たはずなのに。
明日にはバイトに行くつもりだったのか……?」
お前の未来予想図の中で、俺、どんだけ簡単にやられてんだよ。
そして、お前、なんで、なんの罪の意識もないんだよ、と呟いている。
「なんだ、ニートを殺しに来たって。
旅行客。
お前、ニートに騙されて、もてあそばれたとかなのか?」
そんな佐古の疑問を聞いてマグマが言う。
「ニートが女にもてあそばれることはあっても、女がニートにもてあそばれることはないだろうよ。
……そいつはただ、ニートに伝えに来ただけだ。
申し訳ないと思ってしまうくらい幸せになってくれと」
佐古は眉をひそめ、茉守を見下ろす。
「なんだ、『幸せになれ』って。
宗教か?」
そのとき、
「マグマーッ!」
と叫ぶ声が何処からともなくした。
振り返ると、小柄な男が、ヤクザの鉄砲玉がなにかのように、ナイフを両手でつかみ、マグマめがけて走ってくる。
「あいつっ、この間、出所した……」
佐古が言い終わる前に、マグマが男の方に向かって歩き出した。
マグマはナイフを持つ男の手を片手でつかみ、上に持ち上げると、もう片方の手で、男の額をついて、前に出られないようにする。
男は、
「マグマー」
「てめー」
「ちきしょー」
という少ないボキャブラリーで叫び続けていた。
男が手を振ったので、ナイフが手から外れ、放物線を描き、飛んでくる。
ナイフがニートの頭に当たりそうになったとき、横から茉守がそれをつかんだ。
「……なんで、逃げないんですか、ニートさん」
微動だにしなかったニートに茉守がそう問うと、
「いや、お前、俺を殺しに来たんだろうが」
とニートは言う。
「いや、ただ飛んで来たナイフに当たって死ぬとか。
誰の復讐にもなってないし、もったいない死に様じゃないですか」
それくらいなら、私に殺されてください、と茉守が訴える横で佐古が何故か腹を抱えて爆笑している。
「絶対っ、今のっ。
ほっといたら、ニートの脳天に刺さってたよなっ。
コントみたいに……
ぽすって……
……コントみたいにっ」
ひひひひ、と笑いつづける佐古の横に居る若い刑事、帆村が青ざめ呟いている。
「僕、佐古さんのツボがわかりません……」
いや、かなり緩やかに飛んできたので、突き刺さるというより、コン、と当たって落ちるくらいだったろう。
佐古もそれがわかっているから、笑ってるのだろうが。
まあ、それにしても、笑うところではないかな、と茉守が思ったときにはもう、マグマは男の上に乗り、腕を捻り上げていた。
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