上 下
42 / 75
海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

なにを考えてるんだ……

しおりを挟む
 
 そのあと、茉守は倖田に付き添われ、ロープウェイで山頂に上がった。

 渓谷の深い緑もきらめく海も見えて。
 今日もロープウェイからの眺めはいい。

「絶景ですよね」
と茉守が言うと、倖田が嬉しそうに、

「だろ?」
と言う。

「反対派だったジイさんたちも、一度乗ったら病みつきになって、しょっちゅう乗ってるらしいぞ。

 島の人間は年間パスポートが買えるからな。

 ……なに考えてる」

「いえ。
 せっかく年間パスポートを買ってるのなら、ことあるごとに活用しようと思いますよね」

「……年間パスポートがあるからって、山の上に呼び出して殺そうとか。
 プチプチに包んで運ぼうとかしないと思うぞ」

 何故、私の考えてたことがわかりましたっ、と茉守は驚く。

「倖田さんは超能力者ですかっ」

「お前の考えなぞ、マグマでもお見通しだっ」
と叫んだあとで、倖田は、……いや、と言う。

「いや、わからないことはたくさんあるんだが。

 普通、こういうミステリアスな美女には惹かれるものだと思うが。

 お前の場合、ミステリアスを通り越して、得体が知れないから、惹かれる以前に怖いな」

 顔も綺麗すぎて不気味だ、と横目にこちらを見ながら、倖田は文句を言ってくる。

「うーん。
 でもそういえば、ロープウェイは呼び出すときより、重たい物下ろすときにいいかと思ったんですけどね。

 死体とか」

「いや、お前だろっ。
 転がした方が早いっつったのっ」

「あと、ほんとうにニートさんの庭に落とす気だったのかも気になります。
 山頂から落としたのか、そうでないのか。

 まあ、汚れてたから山頂からでしょうけどね。
 プチプチに傷もありましたし」

 そこで茉守はあの楠のある方角を見て黙る。

「……今、なに考えてんだ」

 ロクでもないこと考えてそうな、その沈黙が怖い、といった感じで、倖田が訊いてきた。

「山頂から転がす以外になにかあるかなと思って。
 あらゆるパターンを考えた方がいいと思うので。

 ……ドローンで運ぼうとして、ぼとっと落としたとか?」

「どんなデカいドローンだよ。
 ドローンもぶら下がってる死体も目に付くだろうが」

「じゃあ、気球とか」

 気球何処から来たんだよっ、と倖田が叫ぶ。

「ドローンよりデカいだろうがっ」

「いや、気球だったら、なにかのキャンペーンで飛ばしてると思ってもらえるかもしれないじゃないですか」

「思ってもらえるって……。
 なんかお前の思考って犯罪者寄りなんだよな」

「そういえば、倖田さんは、そんなにロープウェイを使いたがっているのに、なんで、昨日はニートさんと自力で山頂まで上がってきたんですか?」

「お前の話、ほんと飛ぶなっ」
と文句を言ったあとで倖田は言う。

「急いでたからだよっ。
 遠回りだろうが、ロープウェイ使ったらっ!」

 ってか、なんだこの莫迦と天才を掛け合わせたら、どっちでもなくなったみたいなのっ!
と倖田は叫ぶ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雨屋敷の犯罪 ~終わらない百物語を~

菱沼あゆ
ミステリー
 晴れた日でも、その屋敷の周囲だけがじっとりと湿って見える、通称、雨屋敷。  そこは生きている人間と死んでいる人間の境界が曖昧な場所だった。  遺産を巡り、雨屋敷で起きた殺人事件は簡単に解決するかに見えたが。  雨屋敷の美貌の居候、早瀬彩乃の怪しい推理に、刑事たちは引っ掻き回される。 「屋上は密室です」 「納戸には納戸ババがいます」  此処で起きた事件は解決しない、と言われる雨屋敷で起こる連続殺人事件。  無表情な美女、彩乃の言動に振り回されながらも、事件を解決しようとする新米刑事の谷本だったが――。

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

金無一千万の探偵譜

きょろ
ミステリー
年齢四十歳。派手な柄シャツに、四六時中煙草の煙をふかす男。名を「金無 一千万(かねなし いちま)」 目つきと口の悪さ、更にその横柄な態度を目の当たりにすれば、誰も彼が「探偵」だとは思うまい。 本人ですら「探偵」だと名乗った事は一度もないのだから。 しかしそんな彼、金無一千万は不思議と事件を引寄せる星の元にでも生まれたのだろうか、彼の周りでは奇妙難解の事件が次々に起こる。 「金の存在が全て――」 何よりも「金」を愛する金無一千万は、その見た目とは対照的に、非凡な洞察力、観察力、推理力によって次々と事件を解決していく。その姿はまさに名探偵――。 だが、本人は一度も「探偵」と名乗った覚えはないのだ。

処理中です...