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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
警察って無能なんですか?
しおりを挟むそんな話をしていると、
「お前ら、なんか余計なことやったりしてないだろうな?」
と言いながら、佐古が訪ねてきた。
「お、どうした。
クマのぬいぐるみなんて出して」
訝しげに佐古が縁側にちょこんと一人で座っているクマを見る。
「それ、マグマさんにいただいたんです」
と茉守が言うと、佐古が驚いたような顔をした。
その驚きはなんなんだ、と倖田が訊くと、
「意外だっ。
二段階の驚きだっ」
と佐古は言う。
「マグマッ。
お前、女にぬいぐるみとかやるのかっ?
旅行客っ。
お前、ぬいぐるみ抱いてるとか似合わないぞっ。
嬉しいのかっ?」
「……マグマといい、警察には無神経な奴しかいないのか」
そう倖田が呟いていた。
「だが、そんなに長く一緒に居たわけでもないのに。
こいつの本質を突いているところがすごいな」
とマグマが言った。
確かに茉守とぬいぐるみはなんだか違和感がある。
「でも、嬉しいですよ。
嬉しい……
うん、嬉しいです」
と確認するように茉守は言った。
佐古たちは事件の話をはじめたが、ニートは立ち上がり、日課なのか、砂紋を描きに行った。
茉守は少し遅れてついて行き、ニートを眺めていた。
自分はこの人を殺す予定だったと白状したばかりなのに。
誰も止めに来ないな、と茉守は思う。
私を信用しているのだろうか?
突然、気が変わるかもしれないのに――?
だが、ニートにも、まるで警戒した様子がない。
まあ、この人は殺されたかった人だからな、と思ったとき、ニートが顔を上げ、
「やってみるか?」
と茉守に向かい、訊いてきた。
熊手を差し出す。
「いえ、結構です。
見てるのが楽しいので」
楽しい……。
そうだな、楽しいな。
ぼんやり白い砂紋が描かれていくのを見ているだけで、なんだか楽しい。
島の風に木々は揺れ、何処で鳥が鳴いている。
今日はあまり暑くないので、ぬるい風が頬に吹き付けてくるのも悪くなかった。
そうして、ぼんやりしているうちに、いつの間にか、背後にマグマが立っていたようだった。
「警察はさっき見つけた『ツギ ハ オマエダ』は悪戯だということにして。
橋の女は自殺で片付けたいようだぞ」
「まあ、前のと違って印刷ですしね」
同一人物の仕業ではないのかも、と茉守はニートが描き出す美しい線を見ながら言う。
「なんで同じにしなかったんだろうな」
「ツギハオマエダって言葉が書いてあった、としか知らなかった可能性もあります。
例えば、山頂に居た観光客などだった場合。
耳で聞いただけだったでしょうからね。
まあ、警察もそんなことはわかっているのでしょうが」
「どうだかな。
そんな風に考察することさえしていないかもしれないぞ。
ドラマじゃないんだ。
刑事に必要なのは、推理することじゃなくて、足で証拠や証言を集めることだからな」
「まあ、その方が確実ですよね。
なにを考えても、所詮は机上の空論みたいなものですから。
そうだ。
人手がいるのなら、私もなにか調べましょうか?」
マグマは少し考えたあとで、
「島の人と少し話してみるか?」
と訊いてくる。
「男連中が訊くのとは違う話が出てくるかもしれない。
島民はみな協力的ではあるが。
自分たちでは関係ないと思ってることが関係あるかもしれないしな」
お前と雑談でもした方が意外な事実がポロリと出てくるかもしれない、と言う。
わかりました、と茉守はニートの方を振り返ったあとで行こうとした。
マグマが言う。
「お前の回想、霊が出てこないよな」
茉守が振り返る。
「現場に行ってみたりもしただろうにな」
そのままマグマは先に下りて行ってしまった。
ニートも手を止め、こちらを見ていた。
母家の庭に降りると、マグマは遅れてきた若い刑事と話していた。
佐古より、よくしゃべってくれそうだったからだろう。
佐古は何故かクマの片足をつかんで逆さずりにしてみたり、腹を殴ったりしてみている。
「佐古さん」
おっ、と茉守が戻ってきていたことにようやく気づいて佐古は言う。
「埃はたいておいてやったぞ、クマ」
……いや、単に殴ってましたよね、今、と茉守は思う。
ぬいぐるみに普段縁がないのか物珍しくて、いろいろやってみているようだった。
女のきょうだいがいないのかなと思う。
「佐古さん」
とマグマの方を見ながら呼びかけると、
「あん? なんだ?
マグマから話聞いたんだろ?
警察の方針に不満でもあるのか。
心配するな、俺もだ」
と言う佐古に向かい、茉守は言った。
「警察って、無能なんですか?」
「だ~か~ら~。
俺は別に今の方針に……」
「あの人をクビにするなんて、無能なんですか?
と言ったんです」
マグマを見ながら茉守はそう言った。
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