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容疑者マグマと第二の殺人
きっと殺されたんだろう
しおりを挟む早朝、四人は起きて縁側に腰掛けていた。
事件の詳細を載せているだろう新聞屋を待っているのだ。
いやまあ、警察が隠していることもあるだろうから、そんなに詳しくは出ていないだろうが。
少なくとも、佐古よりは教えてくれるだろうし。
那須のように捕まらないこともないだろう。
夏とはいえ、山の朝の空気は冷たい。
ひんやりとして、ちょっと湿った風を頬に受けながらも、マグマは眠そうにぼんやりしていた。
坊主なのに、一番朝に弱そうだ、とあまり眠らなくても平気な茉守は隣のマグマの濃い横顔を見ながら思う。
「那須はあれだな。
きっと、殺されたんだな。
いろいろと知りすぎて」
とぼんやりしたまま、マグマが呟く。
「犯人にですか?」
と茉守は訊いたが、
「佐古にだろう。
俺たちにしゃべらないように」
とマグマは言う。
そんな阿呆な会話をしている間に、べたべたべたべたべた、と山に響き渡る不思議な音が聞こえてきた。
「来たぞっ」
とマグマが勢いよく立ち上がる。
「いつも、早朝から凄い音で来やがって。
バイク買い換えろっと思ってたんだが。
遠くからでも聞こえて、今日は助かるな」
「そうは言っても、こんなに新聞屋を心待ちにする日はそうそうないだろうよ」
そう言いながらも、倖田も立ち上がる。
みんなで山門の前に出た。
だが、早くに出過ぎたようだ。
まだ新聞屋さんは遠く離れたご近所さんに配っているところらしく。
時折、止まってはまた、動き出す音がした。
屈強な腕を組み、仁王立ちで待つマグマを見たら、殺されるっ、と新聞屋さんが逃げ出してしまわないだろうか?
などと思っていたとき、マグマが茉守に訊いてきた。
「殺された女は身元が明らかになりそうなものはなにも所持してなかったようだが。
お前はちゃんと持ってんのか」
「名前とか書いてあるものですか?
持ってますよ。
身元不明の死体になる予定はないんで」
「……見せてみろ」
はい、と茉守は持っていたバッグからノートを出して見せる。
ノートの表紙には茉守の名前があった。
「いや、これ、自分で書いたんだろっ!?」
「中見てくださいよ。
講義内容がびっしりです。
私がちゃんとH大学に通っている学生である証です」
証になるか~っ、とマグマが叫ぶ。
「あと、一生懸命書いた大事な白地図の裏にも名前書いてますよ」
「それ、昨日書いたんだろーっ!?」
とまたマグマが叫んだとき、べたべたべたべたべた、と凄い音をさせて新聞屋さんがやってきた。
「あ、おはようございま……」
バイクを止めた若い新聞屋のおにいさんが笑顔で挨拶しかけたとき、みんな、ようやく此処に立っていた本来の目的を思い出した。
全員で新聞屋さんに駆け寄る。
「新聞寄越せーっ!」
うわあああああっ!
早朝から働く善良な新聞屋さんを政治家と墓守と女子大生と坊主で驚かせてしまった。
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