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容疑者マグマと第二の殺人

またお前らか

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「ツギハオマエダ……」

 茉守は遺体のもとにかけつけた年寄りの医者を見ながら呟いた。

「切れ目も抑揚もなく言うと、なにかの呪文みたいだな」
と横に居るマグマが言ってくる。

「……マグマさん。
 あの方が監察医代わりの島のお医者様ですか?」

「そうだが?」

「本土のお医者様にも見ていただいてはどうですか?」

「何故だ」

「いえ、あのおじいさんを信用してないわけではないのですが。
 ヤブだ、と後ろについている方が……」

「おい、その遺体、本土に回して調べてもらえよ」

「お前もう民間人だろうがっ」

 命令すんなっ、とマグマは元同僚の刑事に怒られていた。
 


「またお前らかっ」

 本土に戻ろうとしていた倖田が遅れてかけつけ、茉守たちを叱る。

「今度死体を見つけたら、埋めろと言っただろうっ」

「埋めようにも、此処は硬い岩盤の上に石や砂を撒いてるだけだから」
とニートが言い、

「今回ばかりは俺も埋めたかったんだが……」

 間に合わなかったんだ……と残念そうにマグマが言う。

「お前ら俺を疑うが。
 そもそも、俺なら、こんな見つかるような真似はしないからなっ。

 俺は元刑事だぞっ。
 人に気づかれないような、もっと上手い殺し方も思いつくし、もっと上手い隠し方も知っているっ」

 そうマグマは叫んで、上司に説明したり、現場を駆け回ったり、忙しそうにしている元同僚たちに、

「やかましい、黙れっ。
 捕まえるぞ、今すぐにっ」
と怒鳴られていた。

 ……マグマさんが気が荒いって言うけど。

 警察の人、みんな気が荒いな、と思いながら、茉守は白地図にいろいろ描き込んでいた。

 上からニートが覗き込む。

「ごちゃごちゃして見づらいな」
「最初、大きくしすぎました」

「ペンで描いたんだろ。
 消せないよな」

「消せますよ、フリクションペンなんで」

「この地図記号、なんだ?
 あっちこっちに出現して……

 って、全部消してどうするっ」

 茉守はひとつずつ消すのが面倒臭くなって、描いたものすべて消していた。

「大丈夫です。
 覚えてます。

 小さく描き直します。
 あるいは、いるモノだけ書きます」

「お前のいるモノって、なんなんだよ。
 ところで、さっきの謎の地図記号はなんだ?」

「さっきのですか。
 あれは、ニートさんです」

「いっぱいあったぞ」

「ニートさんが出現したところに書いてます。
 墓守の地図記号です」

「勝手に作るな……」

「墓の上に立たせてみました」

「ご無礼だろ」

「字で書き込むとごちゃごちゃするので」

「マグマの記号はないのか」
と倖田に問われ、

「では、これで」
と茉守は地図記号ではなく、よく使われる、怒りのマークを赤いペンで描いてみた。

 近くを歩いていた、さっきマグマを怒鳴っていた刑事まで覗き込み、笑い出す。

「おい、そこっ」
と他の刑事と話していたマグマが振り返り、おのれの地図記号通りに怒鳴っていた。

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