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消えずの火と第一の殺人
引きこもっているのは、この島の中なので――
しおりを挟む「倖田。
ニートまで。
なにしに来た?」
山頂に上がると、あの不吉なまでに美しい女と居たマグマにそう問われる。
ニートは倖田とともに、山を登ってきていた。
引きこもっているのは、この島の中なので。
島内なら、何処までも行ける。
倖田は神妙な顔でマグマにあの紙を渡していた。
マグマが、なんだ? と受け取った途端、倖田は、ささささっと後退して叫ぶ。
「もうそれ、お前のなっ」
つられて自分も下がっていた。
その文面を読んだマグマが、まずいものを押し付けて逃げようとする自分たち二人の言動を見て、
「いや、小学生かっ」
と叫んでいた。
マグマの隣に立つ茉守は笑いもせず、ただ物珍しそうにこちらを見ている――。
「なんだ、これ。
予告状か?」
二人に渡された紙をまじまじと見るマグマの横から、茉守もそれを覗き込んでみた。
「ツギ ハ オマエダ」
声に出して言ってみる。
「なにが次はお前だなんでしょうね?」
「こういうのは普通、殺害予告じゃないのか」
と言うマグマに、
「次はお前が殺す番だ、かもしれませんよ」
と言って、
「……斬新だな」
と言われる。
「マグマさん、これ、隅になにか」
茉守は、その予告状の隅に、うっすらとピンク色のシミのようなものがあるのに気がついた。
「なんだ?
ピンクのマジックがこすれてついたのか?」
「そんな感じじゃありませんけど」
と茉守が言ったとき、マグマがそのピンクのシミを嗅いでみた。
「……甘い匂いがする」
茉守も顔を近づけ嗅いでみる。
「もうちょっと離れろよ」
とマグマに言われたが、近すぎるマグマのことは気にせず、茉守は言った。
「さっきのイチゴシロップと同じ匂いがします」
「イチゴシロップ?
かき氷屋のか」
と倖田が口を挟んできた。
「じゃあ、犯人はかき氷屋かもしれないな」
というマグマの声は、本人呟いただけなのだろうが、大きかったので。
かき氷屋の横で刑事たちに話を聞かれていた店のおにいさんが、ええっ? という顔をして、こちらを見た。
「だが、待て。
そういうば、こいつもイチゴのかき氷食ってたぞ」
とマグマが茉守を指差す。
えっ? と声を上げたあとで、茉守は淡々と弁解する。
「でも、私でもかき氷屋さんでもない可能性もありますよ。
かき氷屋さんのテーブルやカウンターで書いたら、誰でもシロップの汚れくらいつきますから」
「事前に汚れてればな。
おい、かき氷屋。
今日、イチゴのかき氷、何時から何個出た?」
マグマが大きな声でかき氷屋に訊く。
「さっき、そのお嬢さんが頼んだ一個だけです~っ」
とかき氷屋が叫び返してくる。
「まあ、まだ朝早いからな」
とマグマが呟き、
「じゃあ、犯人はこの女だな」
と倖田が茉守を見下ろし言った。
また犯人の疑いをかけられ、茉守はつい、
「えっ? かき氷屋さんかもしれませんよ」
と言ってしまう。
突然の方針転換に、ええっ? とかき氷屋が叫んだ。
「……お前、さっきまで、かき氷屋かばってなかったか?」
とマグマに言われる。
「いえいえ。
いろんなパターンが想定できると言っただけですよ。
そもそも、私はずっとマグマさんと居ましたしね。
それに、イチゴシロップがついているから、それに関係ある人物が犯人である、ということにはならないと思います。
真犯人が、別の人間を犯人に仕立て上げようとして、シロップをつけたのかもしれない」
「そんなこと言い出したら、シロップに関係のある人間もない人間も犯人の可能性が出てきてしまうじゃないか」
そのシロップ、なんのヒントにもならなくなったぞ、と倖田が文句を言う。
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