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浮気相手のちょっとした秘密

※※※※

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 那智が職場に行くと、ちょっとちょっと! と公子が入り口から手招きしてきた。

 え? 私? と自分を指差すと、激しく頷く。

 なんだろうな、と思い、廊下に出て行くと、強引に隅に引きずっていかれた。

 公子は周囲を見回し、小声で言ってくる。

「式が早まったらしいわよ」
「えっ?」

 公子は、まるで自分のことのように慌てていた。

「来週の日曜になるかもって」
「なんで急に」

 幾らなんでも早くなりすぎだ。
 もう三ヶ月はあったはずなのに

「どうも前会長の具合が悪いらしくてね。
 入院する前に、梨花さんの結婚式を見たいらしいのよ」

 前会長といえば、梨花の祖父のはずだ。

 今は社長が会長を兼任しているが。

 そういえば、随分前に体調を崩して、会長の座を降りたと聞いていた。

「早めるのなら、式場がもうその日しか空いてないかもって」

 そのせいだったのだ。
 昨日、遥人の様子がおかしかったのは。

「どうするの?」
と公子が母親のように那智の腕を握り、問うてくる。

 だが、どうしようもない。

 昨日の遥人のあれは、覚悟を決めた上での行動だったのだと今更ながらに気づいた。

 自分が遥人と結ばれないのは仕方がない。

 だが、遥人がなにをするつもりなのか知らないが、このままにしていいのか。

 専務。
 貴方の望むことを望む通りにすれば、貴方は眠れるようになるとでも言うんですかっ。

 那智がそう思ったとき、携帯が鳴った。

『※※※※』
と表示がされていて、名前がない。

 洋人だ。

「はいっ」
と慌てて出る。

『那智、仕事中?
 だよね。

 でも、もしかして、急を要するかなーと思ってかけてみたんだけど。

 辰巳遥人は、たぶん、人を殺すつもりだよ』

 どうする? 那智、止めてみる? とどっちでも良さそうに言う。

「桜田さんは……桜田さんは、なんで此処に居たの?」

『それと、遥人のことは関係ないよ。
 あと、川村梨花のことは趣味だろ、単に。

 でも、例え別件だとしても、彼らが近くに居るってことは、遥人がなにかしでかした瞬間に捕まるってことだよ』

 那智は拳を握り締める。

 わかっていた。
 初めて、遥人を寝かしつけたあの晩から。

 あの人の心に不眠症の原因となった深い闇があることは。

 公子が不安そうに自分を見つめてくる。

 那智の方が、安心させるために、公子の肩を叩く番だった。

 電話の内容は聞こえてはいないのだろうが、那智の顔つきから、異様に切迫した空気は伝わってきていることだろう。

『人の信念を変えるのは、たやすいことではないよ、那智。

 捨て鉢に生きてきた僕の意識を変えさせるのに、君のお母さんが苦労したように。

 でも、やってみたら?

 君はあの人の子供なんだから』

 そう洋人は、本当の父親のように、教え諭すように言ってくる。

 年下のくせに、と苦笑しながらも、
「ありがとう」
と言って、電話を切った。


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