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万千湖と駿佑の日常
そこには、きっと……
しおりを挟むそれでどうしたと問われた時、すでに頭の中は真っ白で何の話かと思考することさえ億劫だった。
淡く照らされた寝室。
途中記憶は飛び飛びだが、苦痛を覚えるような防衛反応はとうに収まっているようである。
いつものような激しさはなかったはずだが、何度達したか覚えていない。
今夜の哨戒を気にしてくれているのだろうが、こんなに快くてはあまり意味がないのでは。
上体はベッドに投げ出したまま辛うじて腰を支えられて、まだゆるゆると中を擦られている。
でも出来れば後ろからじゃない方が良いな、とアトリは音のする息を吐きながら思う。
いつもより奥まで挿って来るせいだろう。
怖いくらいの絶頂が襲って来るし、何よりユーグレイの顔が見えない。
ただ突っ込んでいる方は変わらず愉しそうだから、今日のようになるべく早く済ませるには良いのかもしれなかった。
「ーーぃ、それっ、も、痛いって、ば」
背後から回された手が、胸の先端を弄る。
何が楽しいのか、散々刺激されたそこは指先で優しく摘まれただけでもぴりぴりと痛い。
それが快感とごっちゃになっている辺り、救いようがないのだが。
ユーグレイは見透かしたように小さく笑った。
「今日は、君らしくもなく神経質になっていただろう?」
「ん、あ? そ、うッーー!」
そうでもない、とアトリが言い切る前に胎の中の熱が弱い所をぐうっと押し上げた。
微睡むような快感が、一気に弾ける。
止めようもなくユーグレイを締め付けて達した。
防衛反応は収まっているのに、馬鹿馬鹿しいほど気持ち良い。
「はぁっ、あっ、うぅーー……」
啜り泣くような声が、喉から漏れる。
僅かな快感も拾おうと中が貪欲に収縮するのがわかった。
もっと動いて欲しい。
もっと奥まで来て欲しい。
けれどユーグレイは答えを促すように、酷く緩慢な動きに戻ってしまう。
ああ、わかってやってんな、こいつ。
「や、ってる最中に……、難しい話、すんなってぇ!」
「やっている最中だから、だろう。君が誤魔化す余裕がない方が、僕としては都合が良い」
「お前、なぁ、あっ!」
そっと胸の先を撫でていた指先が、膨らんだそこをぎゅうっと押し潰す。
一瞬視界が白くなって、アトリは反射的に自身の性器を押さえた。
「んっく、ーーーーっ」
自分で擦って達したかったのか或いはイってしまうのを止めたかったのか、よくわからない。
混乱したまま触れた熱は、とろとろと勢いなく白濁を吐き出している。
アトリ、と耳元で囁かれて呻く。
まあ大体ユーグレイには敵わないから、早く諦めた方が身のためだろう。
肩を震わせて、アトリは息を吐く。
「あんま、良くない、夢を……、この間」
重い頭を少し持ち上げて、背後を振り返った。
ほら大した話じゃないと言いかけて、眉を顰めたユーグレイと目が合う。
「それは、海で僕が襲われる夢か?」
「……あれ、俺、話したっけ?」
あの時は確かにユーグレイを起こしてしまったし、夢見が悪かったことはバレていたようだったけれど。
彼はゆっくりと首を振った。
宥めるようにアトリの背中に触れる手。
そうか。
魔術の構築を任せるために神経を繋ぐようなことをしていたのだから、夢の共有くらいは起きて当然である。
「あ……、なるほど。変な夢見てなくて、良かった」
笑いながらそう言うと、ユーグレイは怪訝そうな表情をしてアトリの腰を掴む。
ゆったりと揺さぶられて、内腿が痙攣した。
「変な、とは」
「は、だから、こういうことしてる、夢、だろ」
彼はふっと耳元で笑った。
そして不意に背後からアトリを抱き締める。
触れ合う肌が心地良くてアトリは目を閉じた。
「君も、ああいった悪夢を見るんだな」
僅かに驚きを孕んだ言葉。
アトリは手を回して、首筋に押しつけられた彼の頭を撫でる。
指の間を擽る銀髪を、確かめるように何度も梳いた。
「見るよ。ユーグに何かあったら、怖い。だから、結構、あのパターン」
「………………そうか」
「防衛反応、壊れて、良かったかもな。少なくとも、俺の力不足で何かあるって可能性は、低くなっただろ?」
この状態が、致命的な損傷を負った結果なのだとしても。
それによって生み出せるものでユーグレイを守れるのなら、それはアトリにとって決して悪いことではなかった。
ユーグレイは顔を上げると、黙り込んだままゆっくりとアトリの中から出て行く。
敏感になった粘膜がずるずると擦られて、びくりと身体が跳ねる。
「んあ、ぁっ、ユーグ、待っ」
ぐい、と肩を掴まれて仰向けになる。
熱を失った後孔が喪失感を訴えていた。
じわりと滲んだ視界に、どこか切羽詰まったような顔をしたユーグレイが映る。
「僕は」
乱れた銀髪が、彼の肩から滑り落ちる。
痛みを堪えるような碧眼は、ただ綺麗だ。
「アトリ。君に触れることが一生叶わなかったとしても、君がこうなったことを『良かった』とは、言えない」
何だか、泣きたいような気分だった。
唇を噛んだユーグレイに、アトリは手を伸ばす。
その頬に触れて、唇に触れて、ただ否定の意味ではなく首を振った。
溢れそうな感情が身体を満たして、堪らない気持ちになる。
「ユーグ」
でも、それなら尚更。
こうなって良かったと、アトリは思う。
こんな風にユーグレイに触れることが出来るのだから、防衛反応なんて壊れてしまって、良かったのだ。
すまないと言いかけた彼の言葉を遮って、アトリは「もう一回」と強請った。
「もう一回、しよ。ユーグの、顔見て、したい」
「アトリ」
少し腰を浮かせて、まだ閉じ切っていないそこに触れる。
柔らかく、呼吸をする度に震える縁。
幾度か注がれたものが指先を伝うのがわかった。
ユーグレイが僅かに息を詰める。
挿れて、とアトリは微笑んで言った。
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