パクチーの王様 ～おまけ～

あやしいものを見ています

なにやら周囲が盛り上がっています

　
　店の駐車場に着くなり、芽以たちは重そうな鉄製のフライパンを手にした逸人に、出迎えられた。

　圭太の車が見えたからだろうか。

　しかし、何故、店の外にフライパン。

　そして、シェフがフライパンを持っているという、ごく当たり前の光景なのに、そのフライパンが凶器に見えるのは何故なのか。

「何故、圭太に送られて来た……」
と逸人に凄みのある目で見られ、問われる。

「いや、おかーさんがですね」
と芽以が言おうとしたとき、店の電話が鳴った。

　お客様からだったらいけないので、ドアの近くに居た逸人が一度、店内に戻る。

　だが、すぐに子機を持って戻ってきた。

　富美からだったようだ。

　逸人は親からの電話だと忙しいときは無視したりするので、富美は最近、逸人のスマホではなく、店の電話にかけてくる。

「は？　芽以？
　ちゃんと帰ってきてるぞ。

　……圭太に送られて」

　最後のところだけ、異様に逸人の声が低かった。

「妊娠って、誰が？」

　え？　妊娠？
　誰が？
と思いながら、芽以も聞いていた。

　すると、富美から、なにか言われた逸人は目を見開き、芽以に向かって訊いてくる。

「お前、妊娠したのかっ、芽以っ？」

「ええっ!?」

　初耳ですっ！
と思わず叫んだ芽以の言葉にかぶせるように、横から圭太も叫んできた。

「本当にっ？
　本当に妊娠してるのか、芽以っ。

　お前、妊娠するようなことをしたのかっ？」

　いや……、それはそれで、なんだかおかしくないですかね……？
　


　妊娠……しているのだろうか？

　自分ではよくわからないんだが。

　だが、これ、違ってたら、どうなるんだろうと思うくらい周囲が盛り上がっている。

　いろんな意味で……と恨めしげに、こちらを見ながら去っていった圭太を思い出す。

　芽以はもともと周期が狂わない方だったのだが。

　仕事を辞めたり、店に出たり、結婚したりと、ちょっとバタバタしていたら、睡眠不足になったりして、此処のところちょっと不順になっていた。

　だから、可能性はゼロではないが――。

　うーん。
　食べ物に匂いを嗅いで、嘔吐がつくことはあるけど。

　まあ、これはいつも通りだしな、とトレーの上のパクチーを見て、芽以は思う。

　っていうか、お義母さんの期待がすごすぎて、違ったらどうしようと思って、確かめたくない……。

　逸人さんもなにも言わないけど。
　なんだか仕事中も、いつもより気遣ってくれてるみたいで、チラチラこちらを見ているし。

　そう思った瞬間、キッチンに居た逸人と目が合ったが、さっとそらされる。

　うーむ。
　要人警護の人みたいな目線だったな、今の……。

　SPとか、逸人さん似合いそうだな。

　ダーク系のスーツとか着て、耳にイヤホンやって、柱の陰に隠れてるの。

　いや、SPが柱の陰に隠れていたりするものなのかは知らないが……。