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疾走する幽霊

俺、やっぱりいらないんじゃないかな……?

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「でもまあ、だいたいは、深鈴の言った通りだろう。
 藤堂を狙っていた人間が居て。
 藤堂はその人物に自分を殺させようとした。

 だから、集落の下に目印として、仏像を置いた。

 傘を差す幽霊男の存在と、仏像がいつの間にかなくなっていたというのが、その証拠だ。

 その経緯を知った持田が、仏像を持って逃げて、定行じいさんの仏像の中に紛れ込ませたんだろう」

 藤堂を殺させないために。

「ところが、その仏像は今度は定行じいさんのところから消えた。
 これをやったのは誰なのか、まだわからないけどな」

 藤堂が取り返したのか?

 それなら何故、持田が此処に持っていたのか。

 或いは、持田が人目につくところからまた動かしたのか。

 それとも……。

 最後の答えは、菜切にとっては、あまりいい答えではないな、と思っていると、深鈴が、
「あの集落と霊園のある通りから、定行さんのところまでは結構距離がありますよね。

 持田さんが持ち出したんだとしたら、どうやって運んだんでしょう。

 菜切さんは関わってないんですよね?」

 頷いた菜切に、
「誰か仏像を持った女の人を乗せたって運転手さんはいらっしゃらなかったですか?」
と訊いていたが、そんなことをしていたら、すぐ噂になっているに違いない。

「持田さんは、免許は?」
と深鈴が確認すると、

「持っているようでしたが。
 運転はしたくないといつか言っていました」

 恐らく、藤堂の事故のトラウマだろう。

「じゃあ、どうやって。
 支配人が手を貸したんでしょうか?

 それとも、持田さんが担いで?」

 月の明るい夜。

 持田が元恋人の彫った仏像を背負い、なにもない山道を踏みしめながら歩いている幻を見た。

 あの小さな身体で、その道のりは果てしなく長かっただろうに。
 それだけ、藤堂のことが好きだったのだろう。

 その想いが、今ではなく、過去のものだったとしても。
 持田は彼に死んで欲しくなかったのだ。

 菜切もそう思ったのか、黙り込んでいる。

「ともかく、仏像と持田と支配人の行方を探そう。
 大体は最初、深鈴が言った通りだろうから……」
と言いかけ、

「……俺、いらねえかな?」

 深鈴が居れば、推理も事足りるような、とぼそりと呟いて、先生、先生、とみんなに止められる。

 志貴にまで。

「大丈夫ですよ、先生。
 まだほら、手を握ってみてない人も居るじゃないですか」

「そうですよ。
 行きましょう、先生」
と志貴と深鈴に急かされる。

「この辺りは新田さんたちが探してくださるそうです」
と菜切が言い、和田が、

「町中は我々が見て回ります」
と言ったので、

「……じゃあ、俺たちは、霊園の辺りと定行の爺さんちの辺りを探すか」
と言った。

 菜切が車を出します、と言ってくれたので、みんなで一度、宿に戻ることにした。


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