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疾走する幽霊

常に一言多いです

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「いろいろ思うところあったんでしょうね。
 私もたまに、よく出来てますね、と声をかけることはあったんですが、本当に言葉少なな方で。

 塾の先生をされてた頃は快活で、よく喋る先生だったらしいんですけどね」

「もしかして、あの廃村の入り口にあった仏像って」

「そうです。
 藤堂さんが自分であそこに持っていかれて、置いてもいいかって」

 自分から? と晴比古は確認する。

「ええ。
 土地の持ち主の方が、ほら、空き地に鳥居とかあると、ゴミが捨てづらくなるから、不法投棄とかなくなるって言うじゃないですか。

 仏像でも同じだろうってことで、ぜひ置いてくれという話になって、置いてあったんですけど。

 いつの間にかなくなってましたね。

 藤堂さんが作り変えようと思って持って上がったのかな、と思ってたんですが」

「先生」
と深鈴が心配そうに呼びかける。

 おそらく、自分と同じことを考えているのだろう。

「藤堂さんが仏像をそこに置いたのは、被害者のご家族に自分の居場所を教えるためだったんじゃないのか?」

 え、何故? と和田が見る。

「自分を殺させてやるためだよ。
 廃村に居たのは確かによくなかったのかもな。

 被害者に対する、すまないという想いと、これから自分はどうなるんだろうという不安。

 もういっそ、殺して欲しいと思ったんじゃないのか?

 だから、あそこに自分が居るという目印に仏像を置いた。

 あの辺り、目標物もなく、わかりにくいからな。

 そして、被害者の家族に仏像のある場所から真っ直ぐ上ったところに自分が居ると手紙でも出したんじゃないか?」

 被害者の鎮魂のために道に置きたかったということも考えられなくもないが、それなら、仏像が消えた理由がわからない。

 仏像はあそこから消え、いつの間にか定行の仏像群の中に紛れ込んでいた。

 あの五百羅漢にも見える鎮魂の仏の中に――。

「菜切、本当にお前が運んだんじゃないんだな」

 そう言われた菜切は、青ざめた顔で頷く。

「他に黙っていることはないか」

 菜切は迷うような顔をしたあとで、口を開いた。

「あの……塾の先生って、生活が昼夜逆転してるって、前に、塾の先生乗せたとき、言ってたんですけど」

 それがどうかしたのか? と晴比古が問うと、
「実は、持田さんが、前付き合ってた彼氏は、時間帯がわりと合うのでデートしやすかったって言ってたんですよ。

 ……夜勤が多かったそうなんです。
 此処に来る前、看護師だった頃」
と菜切が言う。

「え? どういうことですか?」
と深鈴が言い出した。

「持田さんと藤堂さんは恋人同士だったんですか?
 持田さんって、支配人と付き合ってたんじゃないんですか?」

 不思議そうに言う深鈴に、

 うん。
 お前の唯一の欠点はそこだな、と思っていた。

 志貴との閉ざされた人間関係の中で暮らしてきた深鈴には、人の気持ちがそうして変わっていくことがわからない。

「深鈴、大抵の人間はひとりの人をずっと好きなわけじゃなくて、途中で気が変わったりするんだよ」
と晴比古が子供に教え諭すように言うと、

「何故ですか?」
と訊いてくる。

 ……いや、何故ですかって。

 こいつは、志貴から変わる予定はなさそうだな、と思っていると、深鈴は、
「いや、まあ、変わることもあるんでしょう。
 百歩譲って、そうだとしても」
と言う。

 百歩も譲らないといけないのか?

「仏像の一件に、持田さんが関わっているらしいことから、持田さんと藤堂さんになにか関係がある、というのは確かでしょう。

 でも、今でもそうして、藤堂さんにこだわっているのに、支配人と付き合っていた、というのがちょっとわからないんです」
と言い出した。

 わからなさそうだな……、と思いながら、
「人にはそういうときもあるんだよ」
とどうにも納得がいかないらしい深鈴に言う。

「持田が藤堂の恋人だったとして、別れたのが事件のことが原因だったかどうかはわからないが。

 そういうとき、人は誰かにすがりたくなったり……」

 するもんなんだよ、と言いかけ、ふと気づく。

 そして、そのまま、ポロリと口から出てしまっていた。

「持田は、なんで、菜切にすがらなかったんだろうな?」

 ずぶ濡れでタクシーに乗ったとき、自分の話を訊いてくれて、就職まで世話してくれた男のはずなのに、と思っていると、菜切に、
「先生~っ」
と睨まれた。

「なんで今、傷口を抉るんですかっ」
と言われる。

 すまんすまん、と晴比古は謝った。

「つい、思ったままを言ってしまった」
と言って、

「余計悪いですよ」
と言われてしまう。

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