64 / 79
疾走する幽霊
血のついた仏像は――
しおりを挟む「ところで、菜切。
問題の血のついた仏像は何処にあるんだ?」
救急隊員の邪魔にならないように、晴比古たちは脇によけていた。
靴にぬめっとした泥がついてしまった。
あとで流しておかないと、と思いながら、晴比古がなんとなく灯りのない奥を見ると、
「そっちです」
と菜切は言う。
「そっちにあります、仏像」
奥の方に歩いていくと、少し洞穴が湾曲していた。
曲がっている壁のところに、かつて、なにかあったのか、平べったい大きな石が幾つか置かれている。
まるで祭壇のようにも見える。
手前の一段低い石の上に、誰かが上がったのだろうか。
今靴についているのと同じ色の土が靴の形に固まっていた。
その足跡は、石に上って、下りている。
晴比古はしゃがんで、懐中電灯でそれを照らしてみた。
菜切が後ろで首を傾げている。
「この壁の前に置いておいたはずなんですけど。
ないなあ」
と一番奥の石の上を指差す。
今はそこには、染み出した地下水で濡れている黄土色の土壁があるだけだ。
「そうか。
みんな祇園精舎のところで驚いて引き返していたから、此処までは来ていなかったんだな。
ところで、この靴の跡は?」
「あ、僕のです」
「……不用意に証拠を残すなよ。
此処に仏像置くのなら、こうして、手を伸ばしたら置けるだろ」
と晴比古は横から、壁際に向かって片手を伸ばしてみせる。
いや、犯罪者に注意して動けと言うのも変な話だが。
さっきの志貴と一緒で、なんとなく、こいつには忠告したくなる、と思っていた。
それに、たまたま持田を車に乗せたせいで、事件に巻き込まれてたようなもんだからな。
まあ、女に弱い、という弱点がなければ、もっと上手くおさめられていたのだろうが。
そのとき、救急隊員がひそひそと話しているのが聞こえてきた。
どうした? と思い、戻ると、警官となにか小声で打ち合わせている。
「どうかしたんすか?」
いきなりそう訊いた俊哉に、うわっ、と年配のその警官が振り向いた。
「に、西島さんとこの……」
「今、じいちゃんの名前が聞こえた気がしたんすけど」
あー、という顔を警官はする。
「いえ、西島先生に一応、ご連絡しておいた方がいいかと思いましてね」
と言ったあとで、
「私が連絡しておきます。
搬送してください」
と救急隊員を振り返り、言っていた。
彼らは頷き、意識のない男を担架に乗せて行った。
「彼は何者なんですか?」
それを見送りながら、志貴が問うと、その和田という警察官は、ああ、志貴刑事、とちょっと畏まる。
何故だろう……。
幕田に対してはまったくそのような態度は見られないのに。
美形には中年のオッサンも弱いのだろうか。
和田は困った顔をしたあとで、
「実は彼はその、とある事情で、西島先生が匿っていた人なんです」
と教えてくれた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
三位一体
空川億里
ミステリー
ミステリ作家の重城三昧(おもしろざんまい)は、重石(おもいし)、城間(しろま)、三界(みかい)の男3名で結成されたグループだ。
そのうち執筆を担当する城間は沖縄県の離島で生活しており、久々にその離島で他の2人と会う事になっていた。
が、東京での用事を済ませて離島に戻ると先に来ていた重石が殺されていた。
その後から三界が来て、小心者の城間の代わりに1人で死体を確認しに行った。
防犯上の理由で島の周囲はビデオカメラで撮影していたが、重石が来てから城間が来るまで誰も来てないので、城間が疑われて沖縄県警に逮捕される。
しかし城間と重石は大の親友で、城間に重石を殺す動機がない。
都道府県の管轄を超えて捜査する日本版FBIの全国警察の日置(ひおき)警部補は、沖縄県警に代わって再捜査を開始する。
おさかなの髪飾り
北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明
物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる
なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか?
夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた
保険金殺人なのか? それとも怨恨か?
果たしてその真実とは……
県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
イグニッション
佐藤遼空
ミステリー
所轄の刑事、佐水和真は武道『十六段の男』。ある朝、和真はひったくりを制圧するが、その時、警察を名乗る娘が現れる。その娘は中条今日子。実はキャリアで、配属後に和真とのペアを希望した。二人はマンションからの飛び降り事件の捜査に向かうが、そこで和真は幼馴染である国枝佑一と再会する。佑一は和真の高校の剣道仲間であったが、大学卒業後はアメリカに留学し、帰国後は公安に所属していた。
ただの自殺に見える事件に公安がからむ。不審に思いながらも、和真と今日子、そして佑一は事件の真相に迫る。そこには防衛システムを巡る国際的な陰謀が潜んでいた……
武道バカと公安エリートの、バディもの警察小説。 ※ミステリー要素低し
月・水・金更新
ピジョンブラッド
楠乃小玉
ミステリー
有る宝石商の殺人事件。それを切っ掛けに、
主人公は世界をまたにかけた戦前の日本の諜報機関の残滓に遭遇することになる。
この作品はまだ若い頃、遊びで書いたものです。
ですからお話は完結しているので、
途中で終わることはありませんので安心してご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる