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妖怪、祇園精舎
なんのためにお前を雇ってると思ってるんだ
しおりを挟む「はい」
と菜切が紙袋を外してくれた。
もう、すぐそこに宿の灯りが見えた。
自分が謎の衣類を追っていった場所に、深鈴たちが待っている。
俊哉が志貴の姿を見て、なにを妄想したのか。
「俺、志貴さんだったら、緊張して、手も握れないっすねー」
と言ってきた。
おい……。
そういえば、まだ手を繋いだままだったと気づいて、離させる。
菜切はもうなにも語っては来ず、口止めもしなかった。
紙袋を被せ、音を聞かせず、地面の上も歩かせまいとした菜切だが。
あそこが何処なのかバレないようにすることはもう諦めているようだった。
まあ、俊哉があれを祇園精舎だと言った時点でバレバレなのだが。
「菜切」
と呼びかけるとこちらを見る。
「俺があの紙袋を被った祇園精舎を真っ黒だと言ってたらどうした?」
と訊くと、
「……もっとわかりにくい位置に動かしたかもしれませんね」
と言う。
やはり、もう見つかってもいいと思っているようだった。
そして、こちらを見て言う。
「やっぱり嘘なんですか?
あの人が黒くないって言うの」
「いや。
俺は嘘はつかない。
ま、これからのことを決めるのは深鈴だよ。
推理するのはあいつなんだから」
「どんな他力本願ですか」
まあ、僕もですけど、と菜切は少し笑っていった。
「わしが乗せたのは幽霊だ」
とその運転手はメーターを上げた。
その優しさに逆らい、自分はタクシーに乗り続けた――。
菜切は新田に頼まれ、持田の病院へ彼を乗せて行った。
本当は新田が菜切を見張るために言ったことのようだったのだが、ついでに本当に持田の様子を見に行くことにしたようだった。
「じゃあ、深鈴。
部屋に来い」
と廊下で晴比古が言うと、俊哉が、
「あ、いいっすねー」
と言い出した。
「……お前も呼んでやりたいところだが。
敵か味方かわからないうえに、お前自身、いろいろ追求されたら困るだろ」
と言ってやる。
紙袋を被った祇園精舎、以外にも俊哉は見聞きしていることがあると思うのだが、それを喋ると、菜切を裏切ることになってしまうから。
「そうなんすけどねー。
見たかったです。
深鈴さんが推理するところ」
と俊哉は残念そうに言う。
「えっ? 私?」
と深鈴が言った。
「今回は先生がするんじゃなかったんですか」
「なにを言う。
なんのためにお前を雇ってると思ってるんだ。
お茶淹れさせたり、暑い日にアイス買いに行かせたりするためじゃないぞ。
……っていうか、買いに行ってるの、俺だよな?」
そうですね、と深鈴もそこは素直に認めた。
「ほらみろ。
お前に出来ることは推理することだけだ、来い」
と深鈴の手を引き、志貴とともに部屋に行く。
どんな探偵ですか、と菜切が居たら、突っ込んでくるところだろうな、と思っていた。
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