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仏像は祟らない

勘が良すぎる女も嫌だ……

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「先生が手を握ったのは、菜切さんと水村さん、それに定行のおじいちゃんと、幕田さんです」
と深鈴が言い、

「ええっ?
 今、僕、入れましたっ?」
と幕田が振り向く。

「水村さんは先生がなにか感じても当然ですよね。
 持田さんを突き落としたんですから。

 定行さんは人を殺していると自分でおっしゃってます」

 デカイ声で言うな、と晴比古は深鈴を見た。

 自分や彼女らにとって、殺人や事件は身近なことだが、一般の人間にとってはそうではないからだ。

「幕田さんは問題外だし」

「……問題外と言われて、嬉しいような、そうでもないような」
と幕田が呟いている。

「こういう奴が意外に怪しかったりするんだけどな」
とそんな幕田を見ながら、晴比古は言った。

「先生は、菜切さんの手を握って、よし、とおっしゃいましたが。
 なにが、よし、なのかはおっしゃってないです。

 よし、シロだから連れて歩こう、とも取れるし。

 よし、なにかあるから、見張るために連れて歩こう、にも取れますよね」

「志貴」

 はい? と志貴が晴比古を見る。

「お前、絶対、浮気とかしない方がいいぞ。
 こいつ、すぐに気づくからな」

 勘がよすぎる女も嫌だな~と思っていた。

 まあ、俺の彼女じゃないんで、関係ないが、と思っていると、志貴が笑顔で、

「浮気したくなったら、僕がその女を殺しますよ。
 って、そんなこと、ありえないですけどね~」
と言う。

「……真面目に推理するのが莫迦莫迦しくなってくるんで、お前ら二人ともどっか行っといてくれないか?」

 深鈴はそんな呟きを無視し、訊いてくる。

「それで先生。
 持田さんとこそこそ話していた菜切さんには、なにかあるのかな、と思い始めてるんですが、どうですか?」

 晴比古は眉をひそめて言った。
 自分でもまだよくわからない感覚だからだ。

「……菜切にはなにかある。
 だから、連れて歩いた。

 それは正解だ。

 だが、なにがかはわからない。
 くだらないことかもしれないしな」

「菜切さんは先生が手をつかんだ相手が犯罪者かどうか読み取れると聞いて、かなり動揺していました。

 ただ、客待ちのフリして寝てるとか言うのも犯罪になるのかと私に訊いてきました。

 本気でそう言っていたのか。
 自分の動揺を誤魔化すために言ったのか。
 まだ判断できていませんが。

 ところで、紗江さんって、私、水村さんだと思ってたんですけど、持田さんだったんですね」
と深鈴が言い出した。

「なんで、水村の方が紗江という名前だと思った?」
と訊くと、いえ、と深鈴は申し訳なさそうな顔をする。

「それが、その、先生の力の話をしてるとき、菜切さんがホテルが気になるから帰ると言い出したじゃないですか。

 あのとき『紗江さん』たちが心配だから、ホテルに戻っていいとこ見せたいって言ってましたよね。

 紗江さんって誰ですか、と私が訊いたら、小声で、フロントの美人だと」

「……お前、持田に殴られるぞ」

 美人と聞いて、勝手に水村だと思っていたようだ。

 病院についていって、名札を見て、持田の名前だと気づいたのだろう。

 我々は部外者なので、従業員名簿は見せてもらっていないし、顔と名字はあらかじめ知っていたので、特に要求もしなかったから。

 幕田が、
「美人かどうかって、その人の感性次第ですもんね。
 あ、深鈴さんは誰が見ても美人ですよ」
と此処ぞとばかりに調子のいいことを言う。

 だが、深鈴はそんなお愛想には反応せずに、こちらを向いて訊いてきた。

「先生は持田さんの名前が紗江だって知ってました?」

「いや、それは知らなかったが。
 あのとき、俺の力のことを知った菜切が帰りたいと言い出したじゃないか、唐突に。

 もし、菜切が本当に怪しく、なにか画策しているとして。

 それに協力者が居るとしたら、急いで、そのことを知らせようとするだろうなと思ったんだ」

 深鈴もそのことが気になったから、今、紗江の名前を出してきたのだろう。

「まあ、紗江の名前を出したのはフェイクかもしれないが。
 持田が俺の手を取らなかったのは確かだな」

 そう。
 水村はあっさり手を取った。

 持田を突き落としていたにも関らず。

 自分の力のことを知らなかった証拠だ。

 つまり、菜切と水村は繋がってはいない。

 だが、持田はいろいろ誤魔化すようにして、結局、手をとらなかった。

「問題なのは、手を握った人間ではなく、握らなかった人間というわけですか」
と志貴が呟く。

 もし、持田が菜切から力のことを聞いていたとして、それで手を握らなかったのだとしたら、持田にはなにかやましいことがあるということだ。

「持田さんと消えた支配人になにか関係があったというのが本当で。

 持田さんと菜切さんがつながっていて。
 二人ともなにか隠していることがあるとするなら。

 血塗れの仏像を見たという持田さんの話も、なにか違う意味がある気がしてきますね」
と深鈴が言う。

「そうだな。
 それと、俺はあれも気になってるんだよな」
と晴比古は言った。

「幽霊タクシー。
 菜切の言う事故は本当にあったのか?

 幕田か志貴、地元の警察に確認してくれないか?」
と言うと、二人は、はい、と返事してきた。

 よく考えたら、管轄外とはいえ、俺が刑事たちを仕切ってるの、おかしいな、とちょっと思ったが。

 二人は別に文句も言わなかったので、まあ、いいか、とそのまま流した。


『お客さん、どちらまで――』



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