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昔の事件

隠れてくださいっ!

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 深鈴が部屋に居ると、誰かがノックしてきた。

 志貴ではないようだ。

 志貴がこの部屋の扉をノックしたにしては、叩き方があまり陽気でなかったからだ。

 魚眼レンズから確かめ、ドアを開ける。

 晴比古が立っていた。

 晴比古は怪しい間男のように、周囲を気にしながら入ってくるなり、小声で言った。

「深鈴。
 まずいぞ。
 志貴より早く犯人を捕まえるんだ」

 さあ、推理しろっ、と晴比古は言ってくる。

「先生、また丸投げですか……。
 っていうか、なんで小声なんです?」

「志貴が何処で聞いてるかわからないからだ」
と晴比古はその視線を上へ下へと動かした。

 いや……天井にも床下にも居ないと思うが、と深鈴が思ったそのとき、トントン、と誰かがドアをノックした。

 その感じに深鈴は、
「志貴じゃないですか?」
と言う。

 なんだか叩き方がそれっぽい。

「隠れてくださいっ、先生」
「なんでだっ」

「一人で私の部屋に来てるなんて、犯人より先に殺されますよっ」

「そうかもしれんが、此処に隠れるのは嫌だっ。
 お前たちがそのまま、此処でいちゃつき始めたらどうするっ?」

「なに言ってるんですか。
 志貴は今、そんなことしませんよ。

 犯人を捕まえるって言ってたじゃないですか」

「『捕まえて、殺す』だろっ?」
と晴比古が言ったとき、部屋の中で別の声がした。

「そうですね。
 もう二度と邪魔されないよう、亮灯といちゃつくのは、犯人捕まえて殺したあとで」

 いきなり真横でした声に、二人はひっ、と悲鳴を上げる。

「志貴っ。
 どうやって、此処に入ったっ!?」

 志貴は叫ぶ晴比古ではなく、こちらを見て心配そうに言ってきた。

「亮灯。
 チェーンはマメにかけなよ、物騒だから。

 ……でも、先生が居るときは、かけなくていいからね」

 そう冷たい目で晴比古を見る。

 此処、オートロックだろっ、今、どうやって入ったっ? と晴比古が言うと、
「フロントで、もう一枚のカードキーもらったんです。
 此処、ほんとは二人部屋だから」
と志貴はカードーキーを見せてくる。

 志貴だから渡したのだろうが。
 フロントの女性陣に文句を言っておかねばと思いながら二人は青ざめる。

「先生、なに勝手に亮灯の部屋に入ってるんですか」
と志貴に文句を言われた晴比古は、

「お前が犯人捕まえるって言うからだっ」
と言い返していた。

 いや、『捕まえる』までは特に問題ないんだが……、と思いながら、深鈴はなすすべもなく、二人で揉めるのを聞いていた。


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