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幽霊タクシー

あなたがたは私の敵です

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 俊哉がおばちゃんたちが去ったあと、
「何故、僕らはそこの人……」
と幕田と菜切が呟く横で、晴比古は言った。

「しかし、ホテルってのは、従業員の出入りが激しいな」

 あのおばちゃんも今初めて見たぞ、と言うと、
「そうですねー。
 外部スタッフも居ますし。

 なかなか」
と志貴が顔をしかめる。

 樹海ホテルのように、人数が少なければ楽なのだが。

 此処、田舎だが、樹海じゃねえしな……。

 というか、車で簡単に郊外のホテルやカフェに行ける昨今、街から離れていることは、あまり問題にならないようで。

 今も、若い女性たちがフロントで楽しげに話している。

 ランチと入浴がセットになっているプランがあるようだ。

 そういえば、定行じいさんがばあさんたちとランチに行ったと自慢していたが。

 この女性たちのように、遠くから車で来るOLや、老夫婦も居て、山の中だが、なかなか客も多い。

 これは従業員も人数要るよな、と思った。

「狸が集団で疾走するのかっていうような広い道もあったしな」

 街から来るのに楽そうだ。
 人口少なそうなのに。

 地元出身の国会議員とか居るからだろうかな、と思っていると、
「あの道は実は、西島先生の……」
と菜切が語り出す。

 いや、いいから、とそれを止めた。

 じいさんが何者でも、とりあえず、あいつは、ちょっと人のいいヤンキーかチンピラにしか見えないから、別にいい、と晴比古は思っていた。

 ふと気づくと、さっきのフロントの女性客がチラチラとこちらを見ている。

 おそらく志貴を見てるんだろうな、と思い、深鈴を窺ったが、深鈴は何故か、彼女らではなく、掃除のおばちゃんについていった俊哉を気にしていた。

 深鈴は俊哉の消えた廊下を見据え、
「彼は私の敵ですね」
と呟く。

 何故だ……。

「志貴、ゲイじゃねえだろ」

「いえ。
 志貴が別の女性に、というのは実のところ、あまり考えてなかったんですけど」

 完全なるお前のストーカーだしな、と晴比古が思っていると、深鈴は真剣な顔で言う。

「男と言うのは想定外です。
 しかも、彼、なんだか可愛いじゃないですか」

 ……俺はお前が西島を可愛いと言ったことの方が気になるが、と晴比古は思っていたが。

 志貴はただ単純に、深鈴に妬かれて浮かれていた。

 そんな志貴を見ながら、晴比古は思う。

 こいつ、見た目を除けば、本当に普通の男だよな。

 いや、普通のストーカーで、普通に犯罪者寄りの男だ。

 全然、普通じゃないか……。

「ま、とりあえず、新しくわかったことを教えてくれ、兄貴」
と志貴の肩を叩いて、

「……兄貴やめてください」
と力なく言われる。

 どうでもいいが、俺が志貴の肩に手を置くと、フロントの女性陣からよくわからない歓声が飛ぶのは何故だろうな、と思ったとき、

「先生も敵ですか」
と深鈴に睨まれた。

「いや、だからなんでだっ!?」

 女の考えることは、どうもよくわからない……。

 晴比古はとりあえず、深鈴の視線を恐れ、志貴から距離をとってみた。

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