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新しい妃

妃たちの最後の茶会

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「ちょっとー。
 なにやってるのよ。

 ついに陛下が今宵、皇后様の許へ御渡りになるって言うじゃないの」

 洋蘭は今日は桜妃のところで、緑妃とともにお茶をしていた。

「まずいわ。
 最初に皇后様に身籠られてごらんなさい。

 我々では太刀打ちならないから」

 なんで、あなた、引き止めないのよ、と洋蘭は桜妃に怒られる。

「いえあの、何故、私が……」
と洋蘭が苦笑いすると、

「じゃあ、あなた、陛下が皇后様のところに行ってもいいのっ?」
と桜妃は言ってくる。

「まあ……よくはないですけど」

「私たちは立場上、陛下のご寵愛をいただきたいだけだけど。
 あなたは陛下が好きなんでしょう?」

 そう言った桜妃は緑妃に同意を求めたようだったが。

 緑妃は口許に笑みを浮かべ、ぼんやり遠くを眺めている。

「……どうしたのよ?」

「それが――
 実は、ちょっと陛下が軽く匂わせてらしたのだけど」

「なによっ。
 今度はあなたの許にお渡りになるの?

 なんで急にあちこち!?」

「突然、あちこちで牛や羊が止まり出したのですかね?」
と呟く洋蘭を、くだらないこと言わないでっ、と桜妃がまた怒る。

「嫌だわ。
 違うのよ」
と正気に戻った緑妃が言った。

「実は、陛下が私を明生みんせい様に下賜してくださるかもしれないの」

「えっ?」

 一瞬、事態が飲み込めなかったらしい桜妃は黙る。

「で、あなたはそれでいいの?」

 そんな桜妃の問いかけに、緑妃はうっとりと語り出す。

「だって、ここにいても、陛下のご寵愛は望めそうにないじゃない。
 子どもの頃から磨きをかけてきた美貌の無駄遣いだわ。

 だったら、欲しいところに差し上げるのがいいかと思えてきたの。

 明生様は陛下がその話をさりげなくされているとき、遠くから熱く私を見つめてくださって。

 ああっ。
 あんな風に殿方に見つめられたことなんて、今まで一度もなかったわっ」

「……そう。
 あなたがそれでいいのなら、いいけど」

 敵が減ったというのに、ちょっと寂しげに桜妃は言う。

「明生様のところは名門だし。

 ふふ。
 わたくし一人だけを愛していると言ってくださってるみたいだし。

 洋蘭。
 皇帝の愛なんて移りゆくものよ。

 せいぜい頑張って」

 そこでいきなり、桜妃が悔しがる。

「陛下は何故、私をどなたかに下賜してくださらないのかしらっ」

「えっ?
 桜妃様までいなくなったら、後宮、人いなくなっちゃいませんか?」

「今もいていないようなものよっ。

 陛下はあなたしか目に入ってないじゃないのっ。

 洋蘭、林杏になにか珍しい菓子でも焼けとねだって来なさいよ」

 はい、わかりました~と洋蘭は立ち上がる。

 皇帝陛下の夜伽か。

 皇后の宮殿に牛や羊に引かせた車で乗り付けるのだろうか。

 それとも、皇后を李常が迎えに来て、裸にむいて、布団で包んで持っていくのだろうか?

 そんなことを考えている間に夜が来た。


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