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後宮に巣くうモノ

思いがけない刺客

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 いや、困ったな。

 なにしに来たんだろうな、この人。

 ああ、私を消しにか、と思いながら、洋蘭は陶妃たちご一行様から、少しずつ後退していく。

 今、面倒事は避けたいんだが……と思った洋蘭は、宮殿近くまで来ていたので、そのまま、ダッと中にかけ戻ろうとした。

「あの者を引っ捕えよっ」
と陶妃が命じる。

 ひいいいいっ。

 っていうか、陛下っ。
 何故、今日に限っていらっしゃらないのですかっ。

 なんかこの人、緑妃や桜妃より気が短そうなんですけどっ。

 迷いなく、即行やられそうだっ、と思ったとき、師匠が外に立っているのに気がついた。

「師匠っ。
 どうされたのですっ?

 どうやって……

 ああ」

 抜け穴から、という言葉を洋蘭は飲み込んだ。

 囚人がよく牢から抜け出していると、陶妃たちに知られない方がいいと思ったからだ。

 っていうか、師匠、ちゃんと立つと実はデカいな、と洋蘭が思ったとき、師匠が言った。

「いや、抜け穴を行ったり来たりはするが。
 外をフラフラすることはない。

 抜け穴の先から歩いて戻ってきたら、目立つであろう」

 城内をひょこひょこ、こんな小汚いジジイが歩いてたりしないからのう、と言う。

「実は、お前の手の者が外に出してくれたのだ」

「え?」

 私の手の者?

 ああ、私を何処からか見守ってくれているという護衛たちか。

 それにしても、何故、師匠を?

 実は、師匠、武道の達人だとか?
と洋蘭が思ったとき、

「そのジジイも引っ捕えよっ」
と陶妃が命じ、あっさりジジイは捕まった。

「師匠ーっ」

 なんのために出てきたんだっ、と思ったとき、

「陶妃を引っ捕えよっ」
と暗闇から声がした。

 張りのあるその声は、太皇太后のものだった。

 陶妃たちの灯す光の中に、太皇太后が進み出ると、ひいっ、と陶妃は怯える。

 太皇太后は鋭い目で陶妃を睨んだ。

 視線だけで、陶妃を射殺してしまいそうだったので、つい、かばって前に出る。

 何故っ? という顔で陶妃が自分を振り返った。

 洋蘭は陶妃に耳打ちをする。

「引いてください、陶妃様。

 うちの師匠に手を出したら、太皇太后様に口では言えないような拷問をされたあと、八つ裂きにされますよ」

 決して大袈裟に言ったわけではない。

 たぶん、そうなる。

 何故っ? という顔をまた陶妃はしていた。

 洋蘭は理解した。

 何故、護衛たちが師匠を外に出したのか。

 太皇太后が近づいてきていたからだ。

 師匠が絡めば、太皇太后がこちら側に付くと思ってのことだろう。

「陶妃よ。
 その方に触れることは許さぬ」

「何故ですかっ?」

 こんな小汚いジジイですよっ? という顔で陶妃が師匠を二度見する。

「その方は私の……

 私の……

 ……その……、

 ……なんかこう、許しがたい相手なのだ」

 じゃあ、いいじゃないですか、という顔を全員がした。

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